2020/01/13
るな 元書店員の書評ライター
『深い河』新潮社
遠藤周作/著
点と点をつなぐように
線を描く指がなぞるのは
私の来た道それとも行き先
線と線を結ぶ二人
やがてみんな海に辿り着き ひとつになるから
怖くはないけれど。
ままならないことばかりだ、と思う。
今日はただ過ぎていくばかりで、明日はいつ牙をむくかわからず、昨日はいつだって私を助けない。愛しても届かず、掴んだと思ってもすり抜けていく。
今、自分が立っている場所は確かに自分が選び続けた先にあった場所。でも本当にそれは自分の意思だったのか、これでよかったのか。選択は正しかったのか。
ぼんやりと膜がかかっていてよくわからなくなる。いつかこのままならなさに終わりはくるのかと考えてみる。その日はすぐのようで、彼方のようでまるでわからない。
そんな夜が、時々ある。
人生は生まれた時から死に向かうだけの旅で、どんなにたくさんのものを掴み、抱えても最後には全て手放さなければならない。
だから、生きる意味や励みや、その他一切のより良く生きようとする行為や感情には、何の意味もないのではないかという虚しさが頭の片隅にある。
神の存在は都合よく信じている。
神はきっと私の理解の及ばない場所にいて、ずっと私を見守っている。
ままならなさや虚しさが耐え難いとき、私は神に向かって本音を話す。
何のために。救われたいために。
遠藤周作といえば神。彼はカトリック信者だ。
「沈黙」を読んだとき、
神は助けない。
ただ一切を見守るだけだと知ったのに私は救われたくてこの本を読んだ。
しかし、やはりここでも解決策はなかった。
それどころか、その混沌としたままならなさそのものだった。
物語の彼らもそれぞれ同じように抱えながら吸い寄せられるようにインドに赴く。
読みながら私もその旅に同行しているような気がした。
生と死が背中合わせの国、インド。
たくさんの魂が集まる河、ガンジス。
辿り着いた彼らと私が見た景色は「無常」だった。
全ての物事は移ろい、ひとところにとどまりはしない。
どんな幸せも不幸も全てはこの河のようにゆっくりと流れていく。
いつか皆、1つになって無に還るならしがみつくのはやめて
このままならなさは河へ流してしまおう。
魂は救われない。自分が救うのだ。
読み終わっても終わらない物語にそう言われたような気がした。
遠藤文学の集大成、素晴らしかったです。
『深い河』新潮社
遠藤周作/著