最後はやっぱり泣かされる。浅田次郎ファンにはたまらない最新作!

金杉由美 図書室司書

『大名倒産』文藝春秋
浅田次郎/著

 

 

そりゃー、えらいことである。
丹生山松平家。将軍家ご家門のひとつでもあり、米どころの越後に領地を有する三万石のお殿様。
それが倒産。
いや、正確に言うと倒産寸前。
いやいや、もっと正確に言うと計画倒産寸前。

 

当主は二十歳そこそこで家督をついだばかりの松平和泉守信房。
足軽の子として育ったのに突然お殿様のご落胤だと言われてお屋敷に住むことになった。それでも四男坊なので部屋住みに終わるはずが、長男が急死、次男はお馬鹿、三男は虚弱。
消去法であれよあれよという間に十三代目のお殿様に。
取り立てて秀でたところはないけれど真面目が取り柄で、とまどいながらも誠意をもって慣れないお役目に励んでいる。
先代は手先が器用で頭も切れ才に恵まれてはいるものの、周囲の諸大名も認めるイケズ。
代々の借金が積もり積もってどうしようもなくなった身上を、まるっとそのまま縁の薄い控えの四男坊に投げてよこして、自分は道楽三昧。このまま四男坊にすべて押し付けて計画倒産させようと企んでいる。前代未聞の大名倒産。
貧乏神に憑りつかれたかのような財政状態だけど、実際問題、憑りついています、貧乏神。
お馬鹿だけど優しく純粋な次兄にも相思相愛の恋人が出来て、その結婚にも持参金やらなんやらで大金が必要だし、大名の義務である領国へのお国入りもそろそろしなくちゃならない。
なんとか財政を再建しようと必死の当代は、通常ならめちゃめちゃ経費のかさむ参勤交代を、たったの五十四人で飛脚並みに走り抜けようと決意する。

 

果たしてお国入りは成功するのか?
足軽だった育ての父とは再会できるのか?
先代は計画を成就させるためどんな手をうってくるのか?
お馬鹿な次男と更にお馬鹿なその嫁との結婚はうまくいくのか?
国元で療養している病弱の三男とはどんな人物なのか?
そもそも豊かな領地なのになぜそこまで借金が増えたのか?
越後の塩鮭は本当にそんなに美味いのか?
貧乏神の暗躍は誰にも止められないのか?
神様たちの泥沼化した恋の駆け引きはどうなるのか?
そしてそして、越後丹生山松平家の運命はいかに?

 

わくわく感がパンパンに膨らんで止まらなーい!
町人からお殿様、更には神様仏様にいたるまで、登場するキャラクターが揃いも揃ってむせかえるほど濃ゆいのも魅力的。個人的には、次男の舅になるマッチョで涙もろくて美食家な旗本のお殿様がツボに入りまくった。イイ。このおっさん、すごくイイ。

 

参勤交代は「一路」、神さまたちの活躍は「憑神」、江戸城でのあれこれは「黒書院の六兵衛」、その他にも「お腹召しませ」やら「壬生義士伝」やら「王妃の館」やら、今までの著作の要素がたっぷりと詰めこまれていて、浅田次郎ファンにはたまらない一冊。

 

過去の作品をひとつも読んだことがないって人もご安心あれ。
というか、むしろそんな人は幸運。
スリルあり笑いあり涙あり、手練れの浅田次郎節を先入観なしで味わえるんだから。
でも先入観あって、どうせあーなるんでしょ?きっとこーなるんでしょ?なーんて穿って読んでいても、最後にはやっぱり泣かされる。
浅田次郎には勝てません。

 

こちらもおすすめ。

『三人の悪党―きんぴか〈1〉』光文社
浅田次郎/著

 

元ヤクザ、元自衛官、元政治家秘書。複雑な過去をもつ三人が、自分たちを陥れた巨悪にむかって立ち上がる物語。とりあえず浅田次郎はここから!極上のカタルシスを保証します。

 

『大名倒産』文藝春秋
浅田次郎/著

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を