2020/03/11
小説宝石
『リボンの男』河出書房新社
山崎ナオコーラ/著
人の生き方はさまざまなのに、女性の収入に頼って暮らす男性のことを「ヒモ」と言って揶揄する風潮があるのはどうしてだろう? 最近ではエッセイ集『ブスの自信の持ち方』で世の中の美醜の価値観に一石を投じるなどフラットなものの見方、考え方を提示して注目される山崎ナオコーラ。新作小説『リボンの男』は、男性の生き方の選択肢について考えさせられる一冊。
小野常雄、通称妹子は子供が小さいうちだけでも、と自ら進んで専業主夫になった。妻のみどりは書店員で、息子のタロウは3歳。朝早く起きてみんなの弁当を作り、幼稚園の送り迎えは原則徒歩という園の方針に従って、タロウにあわせ野川公園をのんびりあるいて片道一時間以上。
保護者たちとの会話も重要な社交の場。ひょんなことで川に100円玉を落としたら諦めずに拾おうとする。そんな日常を送るうちに、妹子は賃金を得ていない自分について「これでいいのか」とふと不安になる。
季節のうつろいを感じながら幼い息子と野川沿いを歩く時間はとっても豊かなものに思える。でも、それが毎日続くとなったら自分もやはり不安になりそうだ……と、妹子に気持ちを寄り添わせるうちに、賃金を得ているか、さらには人よりも稼ぎがよいかどうかで優劣を決める世の中の傾向に改めて違和感が生まれてくる。
主婦の労働については長年さまざまな議論が交わされているが、主婦ではなく主夫を主人公にしたことで、男性側の窮屈さをも取り込んで、仕事や生き方に関する考察を深掘りしている。「ヒモ」じゃなくて「リボン」はどうか。そんなユーモアや柔軟性を持ちつつ、自分で選んだ生き方を肯定しようとさりげなく示唆してくれる優しい日常小説。著者の真骨頂と呼びたい一作。
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『如何様』朝日新聞出版
高山羽根子/著
本物と偽物の違いはどこにあるのか
戦後復員した水彩画家は、容貌がまったく別人になっていた。そのことについて調べてほしいと言われた文筆家の〈わたし〉は、彼の妻のタエをはじめ、さまざまな関係者に話を聞きにいくが、それぞれ語ることが違っていて……。高山羽根子の『如何様』は、複数の証言が重なるなかで、本物と偽物を分けるものは何か、あるいはその違いと人はどう向き合うのかというテーマを浮かび上がらせる。鷹揚にすべてを受けいれるタエと〈わたし〉の間に生まれる信頼関係めいたものに惹かれる。いかようにも読み解ける、企みに満ちた濃密な作品。
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