元陸上日本一のブックライターが驚いた、走る奥深さを描いた一冊。『それからの僕にはマラソンがあった』

今泉愛子 ライター

『それからの僕にはマラソンがあった』筑摩書房
松浦弥太郎/著

 

ライター業についてすでに20数年が経過していますが、もしかすると(もしかしなくても)自分は書くことより走ることの方が、才能があるのかもしれない、と思うことがよくあります。かつて800mで日本一になったことがあり、50歳を過ぎた今は800mで年代別の日本記録を目指しトレーニングに精を出す日々。もともとあまり自尊心が高くないのに、走っているときだけは自然と「自分、すごい」という気分になるのがなんとも不思議です。

 

そんなわたしがこの本を手に取ったのはとても自然ななりゆきですが、読み始めてすぐに「ガツン」とやられました。やっぱり松浦弥太郎さんはすごい! この本には、わたしの知らない世界が広がっていました。走ることってこんなに奥深いものなの? シューズを履くという動作にそこまでの想いを込めることができるって?

 

松浦弥太郎さんは、現在webメディア「くらしのきほん」(https://kurashi-no-kihon.com)の編集長ですが、エッセイストとしてのキャリアの方が長いです。文章はとてもしなやかで優しい上にしっかりと核があり、伝えたいことがはっきりしているから読みやすい。

 

その松浦さんがランニングを始めたのは、9年くらい前のこと。部数増をともなう誌面の刷新を期待されて雑誌「暮らしの手帖」の編集長に就任し、3年ほどたった頃です。激務が重なり心身が不調をきたしていたときに、ふと「走ってみよう」と思いたったのだとか。
最初は300m走ると立ち止まってしまうくらいだったのに、少しずつ距離を伸ばし、ペースも上がっていきます。シューズの履き方、フォーム、食事、体のメンテナンスなど走ることをつうじて、どんどん学びが深まっていく様子が興味深い。

 

松浦さんは、一流アスリートではありません。だけどここまで深めることができる。9年かけて地道に続けてきたことで、これほど人生がゆたかになる。走ることに興味がある人だけでなく、ゆたかな人生に興味がある人に、ぜひ読んでほしい。迷っているとき、苦しいとき、人生への向き合い方の参考にもなるはずです。

 

他のおすすめ本

『悪の箴言(マクシム) 耳をふさぎたくなる270の言葉』鹿島茂 著/祥伝社
→著名人たちの名言集。仏文学者、鹿島さんのセレクト&解説に興味しんしんです。

 

『阿久悠と松本隆』中川右介 著/朝日新書
→カラオケで懐メロを熱唱するなら、これくらい読んどけ、的な。

 

『SNSで一目置かれる堀潤の伝える人になろう講座』堀潤 著/朝日新聞出版
→発信することに、もっと前向きに取り組もうと考えています。

 


『それからの僕にはマラソンがあった』筑摩書房
松浦弥太郎/著

この記事を書いた人

今泉愛子

-imaizumi-aiko-

ライター

雑誌「Pen」の書評を2002年から担当。インタビューや書籍の構成ライターとしても活動している。手がけた書籍は出口治明『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、太田哲雄『アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』(講談社)など。ランナーとして800mで日本一になったこともあり、長いブランクを経て、再び日本記録に挑戦中。


・Twitter:@aikocoolup
・オフィシャルブログ「Dessert Island」:http://aikoimaizumi.jugem.jp/

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を