西上心太が読む『KILLTASK』巧みな構成が冴える、極限の「殺し屋」小説

小説宝石 

『KILLTASK』KADOKAWA
行成薫/著

 

ある事件を引き起こして表の世界と訣別させられた「僕」は、殺し屋(エージエント)見習いとして初のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)のため、殺し屋の辰巳に同行する。だが発注元の注文に従い、相手を惨殺する辰巳の作業を目の当たりにした「僕」は、大きな衝撃を受ける。

 

一方、辰巳が殺した被害者の捜査に当たった若手刑事臼井理子は、事件が自殺で処理されたことに驚く。被害者に刻まれていた逆五芒星の署名。殺し屋の署名がある事件は、解決不可能の案件として、事件にならずひそかに処理されていたのだ。だが五年前、何者かに警察幹部の父をはじめ、母と兄を殺された理子にとって、それは我慢できないことだった。

 

悪魔と異名を取る辰巳。天使と呼ばれる伊野尾。その二人のマネジメントを請け負い、ハッキングのスキルで協力する杏。この三人と共に、「僕」は裏の世界のノウハウを身につけていくのだが……。

 

裏の世界にようこそ! 剣呑で禍々しく、それなのにポップ。それが行成薫の殺し屋・相棒小説『KILLTASK』である。

 

恋人を拉致され、祖父のライフルを持ち出した「僕」。ところがその間に自分の家族が惨殺され、「僕」が犯人にされていた理由とは。そして警察を揺るがす「F文書」とは何なのか。

 

「ゴミ収集の仕事があるだろ。生ゴミの臭いがたまらなく好きだからやってる、なんてやつなんかいるか?」。「殺し屋と単なる人殺しは異なる存在」。

 

警句的な洒落た台詞をあちこちにちりばめ、カットバックを多用した巧みな構成から、意外性に富んだストーリーが浮かび上がる。アンリアルな世界をリアルに描く技巧が冴えた作品だ。

 

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『バンチョ高校クイズ研』集英社
蓮見恭子/著

 

クイズに青春をかける高校生

 

母校・東二番丁高校に地歴教師として赴任した鈴木慎太郎が目論んだのが、かつて自分が大活躍したクイズ研の再興だった。打たれ弱い秀才、抜群の反射神経を誇るが知力が怪しいスポーツマン、生活の知恵に詳しい巨漢、見たものはすべて記憶してしまうカメラアイの持ち主である紅一点の女子。ようやく集まった、顧問も含むエキセントリックなメンバーが、クイズの道に一歩を踏み出していく。

 

高校クイズ研の世界とはこんなに広く凄いものだったのか。そのディテールを追うだけでも楽しい。「知力、体力、時の運」。良質のスポーツ小説と通じる快作だ。続編待望。

 

『KILLTASK』KADOKAWA
行成薫/著

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-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本がすき。」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

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