2020/08/12
小説宝石
『邦人奪還―自衛隊特殊部隊が動くとき―』新潮社
伊藤祐靖/著
自衛隊は国を守る組織。大災害のときも最後の命綱であると国民は信じている。だが彼らの実際の任務はどのように決められ遂行されているのか、残念ながら驚くほど国民に知らされていない。
『邦人奪還』は小説である。架空戦記と言ってもいいだろう。著者は『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』(文春新書)で初めて海上自衛隊の特殊部隊「特別警備隊」の存在を明らかにした人物だ。
実際に行った任務は守秘義務が多く明らかにできないため、出動事案に対して作戦の立て方、実働、結果をシミュレーションした小説となっている。はからずも小説にしたことで、著者は胸に仕舞ってあった無念と誇りを吐露することになったようだ。
主人公は海自特別警備隊第3小隊長、藤井義貴(ふじいよしたか)3佐。著者自身がモデルであろう。一般の人にも自衛官の日ごろの訓練の様子や心構えが分かるように詳しく描かれている。第1章、尖閣諸島魚釣島を中国人工作員から取り戻すための上陸作戦の描写がリアルすぎて、読んでいる私でさえ声をひそめ草の匂いを嗅ぎ、心臓がバクバクするほどの緊張だ。
第2章はクーデターが起こったと思われる北朝鮮と、自国防衛のためピンポイント爆撃に動き出したアメリカの間で、日本の拉致被害者が人間の盾に使われようとしているという情報が入る。
政府は多大な犠牲が出る可能性があっても、人質奪還のために自衛隊を実戦投入できるのか。海自、陸自の協力のもと計画準備から実働まで詳細に描いていく。一般国民には想像できない非リアルな状況のなかの圧倒的リアリティが恐ろしく震えが来た。
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