ryomiyagi
2020/07/08
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2020/07/08
■『座頭市物語』(映画 1962年)
製作:大映/監督:三隅研次/脚本:犬塚稔/原作:子母澤寛/出演:勝新太郎、万里昌代、天知茂 ほか
盲目の按摩師(あんまし)だが、ドスを抜いたら誰にも負けない――勝新太郎の生涯の当たり役となったシリーズの第一作だ。
後の印象としては「無敵のヒーロー」というイメージの大きい座頭市だが、初期作品ではそうでもない。
ヒロイックな活躍よりむしろ、市(いち)を中心とした日蔭者たちの物哀しい人間ドラマに主眼が置かれている。
この第一作では座頭市の殺陣は物語を半分過ぎるまで登場せず、しかもこの時はわずか2人しか斬っていない。
そして、そこからもラストの決闘まで仕込み杖は決して抜かない。
物語は、市と2人の人間との触れ合いを軸に展開する。
まずは小料理屋の女・おたね(万里)。復縁を言い寄ってくるヤクザから身を守ってくれたことで、おたねは市に惹かれる。
印象深いのは中盤のシーンだ。
満月の夜、並んで歩く2人。
「おたねさん、綺麗な人なんだろうな。顔が見たくなった」とつぶやく市に対し、おたねは「私はこんな顔です。触ってみてください」と市の手を導いて自分の顔を触らせる。
月明かりに照らされる2人の姿は幻想的で、市に訪れた温かい心の安らぎが伝わってくる。
そして、もう一人は浪人・平手造酒(みき)(天知)。
平手は肺を病んで「いずれは病み果てて、この寺の土にでもなって終わることだろう」と人生を諦めており、市とは「天涯孤独の身の上」同士という境遇も重なって意気投合する。
そして、小鳥のさえずる静かな池の畔(ほとり)で釣り糸を垂らしながら、友情を育んでいった。
病のため全身を枯れさせながらも、目だけは剣豪らしく鋭く光る天知茂の芝居は鬼気迫り、平手の儚い生涯が切なく映し出される。
だが、2つの一家が対立する中、異なる一家に草鞋(わらじ)を脱いでいる2人は、いずれ闘う宿命にあった。
乱闘の中、対峙する市と平手。市の居合いが平手を斬る。
「つまらん奴の手にかかるより、貴公に斬られたかった」
そう言って息絶える平手。その亡骸(なきがら)を抱きしめ、市は涙する。
その姿は、性別や立場を超えた哀しいラブシーンのようでもあった。
戦いとは勇壮なものではなく、虚しいもの――そんな想いの伝わってくる決闘だ。
【ソフト】
KADOKAWA(DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、DMM.com、ビデオマーケット
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニメストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでいます。
●この記事は、6月11日に発売された『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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