ryomiyagi
2020/07/06
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2020/07/06
■『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』(映画 1977年)
製作:東映/監督:牧口雄二/脚本:志村正浩/原作:島守俊夫/出演:田島はるか、ひろみ麻耶、小林稔侍、志賀勝、佐藤蛾次郎 ほか
狂気に憑かれた尼寺を、牧口雄二監督が極彩色の地獄絵巻として描き出した作品だ。
わずか69分の上映時間の間に、時には耽美、時にはエキセントリック、時には残虐な描写が、これでもかと言わんばかりに詰め込まれていて、ひたすら圧倒される。
まず凄まじいのは、尼寺で下働きをしている寺男(志賀)だ。
顔を真っ白に塗り、頭を茶色に染めた異様な出で立ちだが、その行動もまた異様だった。
この寺は縁切り寺と呼ばれていて、一定期間の修行を経たら俗世との縁を断ち切れることになっている。
そのため、足抜けした女郎や駆け落ちの男女などが庵主(折口亜矢)を頼ってくる。
が、この庵主は男に強い怒りを抱いていて、男が一歩でも足を踏み入れたら生きては帰さない掟になっている。
駆け落ちの若い男女が来た時もそうだった。朝、女が起きたら男がいない。
探し回る女は、寺の裏手で恐ろしい光景を目にしてしまう。寺男が、男の死骸を解体していたのだ。
それだけではない。
寺男はその解体した肉片を旨そうに貪(むさぼ)り食うのだ。
そして、その肉片を煮込んだ鍋を平然と食べるのが、寺に住む少女・小夜(佐藤美鈴)だ。
一見すると無垢で可憐な美少女なのだが、人肉鍋を喰らう場面をはじめ、何食わぬ顔で寺の悪徳に加わっている。
そのため、彼女の微笑みが可愛ければ可愛いほど、そこはかとない残虐さが漂ってしまうのだ。
中でも印象深かった場面がある。
ヒロイン・みの(田島)は俗世では男に酷い目に遭わされ続けてきた女郎だ。
が、寺に向かう途中、薬売りの青年(成瀬正[現・成瀬正孝])だけは優しくしてくれた。
そんな青年が、みのを心配して寺を訪ねたのだ。
彼だけは死なせたくない。
みのはそう思い、なんとか助けようとする。
そんな時、小夜が夕飯を二人に運んできた。
青年はそれを口に運ぶが、みのは毒が入っていると思い吐き出させる。
と、小夜はその吐き出した食べ物を自ら食べ、ニッコリと笑うのだ。
この寺が男に仕掛けた罠はそんな甘いものではない。
清らかな笑顔の向こうにそんな裏が見えてきて、思わず背筋が寒くなってしまった。
【ソフト】
東映(DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、U-NEXT
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニメストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでいます。
●この記事は、6月11日に発売された『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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