第5回 『魔界転生』
春日太一が厳選!いま配信で見たい時代劇

ryomiyagi

2020/06/08

 

■『魔界転生』(映画 1981年)
製作:東映/監督:深作欣二/脚本:野上龍雄、石川孝人、深作欣二/原作:山田風太郎/出演:沢田研二、千葉真一、緒形拳、丹波哲郎、若山富三郎 ほか

 

地上波のテレビからはほぼ消えた一方で、BS、CS、レンタルショップ、ネット配信などでは膨大な数の作品が見られる時代劇。日本の時代劇を知り尽くした春日太一が、視聴する側のさまざまな趣味嗜好を考慮しながら厳選した150作品を紹介する書籍『時代劇ベスト100+50』が6月11日に発売する。
ここでは発売に先行し、本書の中から現在配信で視聴可能な作品を厳選し、紹介をする。

 

幕府によって滅ぼされたキリシタン・天草四郎(沢田)が魔界の力で蘇り、その妖力をもって並み居る武芸者たちを籠絡。世の中を混沌に陥れ、幕府への復讐を果たさんとする。

 

それに対するは、妖刀・村正を手にした若き剣豪・柳生十兵衛(千葉)だった。

 

本作で深作は、当時の時代劇で軽視されつつあった《剣の迫力=チャンバラの魅力》を追求している。

 

特に物語終盤、十兵衛の前には次々と圧倒的な強敵が現れ、観客を煽りに煽っていった。

 

まずは《天下一の剣豪》宮本武蔵。「十兵衛vs武蔵」これだけでも大興奮のカードだが、その上、武蔵を演じるのは名優・緒形拳だ。

 

両者の距離が近づくにつれ、その戦いへの期待は当然の如く高まっていく。

 

そして決闘は巌流島よろしく、見晴らしのよい海岸で繰り広げられる。

 

互いに波や岩を利用しながら、壮絶に斬り合う十兵衛と武蔵。

 

そして、一瞬の隙をついた十兵衛が、櫂もろとも武蔵を斬り伏せる。

 

そして、最後に十兵衛を待ち受けるのは、柳生但馬守。演じるのは十年前に映画『子連れ狼』シリーズをヒットさせた《伝説の剣豪スター》若山富三郎だ。

 

但馬守と十兵衛は役柄の上では実の父子だが、殺陣の上では若山は千葉の師匠に当たる。

 

それだけに、剣を突きつけて対峙し合う両者の間には、ただのフィクションではない迫力があった。

 

その迫力を生み出すには、深作の用意した凄まじい舞台効果も大きく作用している。

 

江戸城は天草四郎たちの攻撃により、火に包まれる。そして、炎で燃え盛る天守閣の中が父子の決戦の場となった。

 

「十兵衛と戦いたい」――その妄執に取り憑かれた但馬守は、ひたすら息子の名前を叫び続ける。

 

BGMが転調すると同時に炎の向こうから現れる十兵衛。

 

観ていて思わず武者震いする。

 

両者は戦いの前の口上を言い合うのだが、この間にもセットは炎で崩れ落ちていく。

 

そして、合わさる剣と剣。稽古場でも長年にわたり木刀を交えてきた両俳優だけに、スピーディーな斬り合いは圧倒的なド迫力。

 

しかもそれが、画面一杯に燃え盛る炎をバックに展開されるため、観ていて興奮が止まらない。

 

【ソフト】
東映(DVD)

 

【配信】
アマゾンプライムビデオ、DMM.com、Hulu、iTunes、U-NEXT、TSUTAYA、ひかりTV、ビデオマーケット
(2020年5月現在)

 

※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニメストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでいます。

 

●この記事は、6月11日発売予定の『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。

春日太一が厳選! いま配信で見たい時代劇

春日太一(かすがたいち)

1977年、東京都生まれ。時代劇・映画史研究家。日本大学大学院博士後期課程修了(芸術学博士)。撮影所や俳優などの取材をもとに、日本の映画やテレビドラマを研究。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『時代劇な死なず! 完全版 京都太秦の「職人」たち』(河出文庫)、『すべての道は役者に通ず』(小学館)、『時代劇入門』(角川新書)など多数。
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