ryomiyagi
2020/06/10
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2020/06/10
■『忍びの者』(映画 1962年)
製作:大映/監督:山本薩夫/脚本:高岩肇/原作:村山知義/出演:市川雷蔵、藤村志保、若山富三郎、伊藤雄之助、西村晃 ほか
後に大泥棒として豊臣秀吉に対峙して釜ゆでの刑に処されることになる石川五右衛門の前日譚(せんじつたん)が描かれている。
本作で雷蔵の扮する五右衛門は伊賀忍者という設定で、その腕前は首領・百地三太夫(ももちさんだゆう)(伊藤)以上と言われ誰からも一目を置かれている。
そして、笑顔の似合う爽やかだった五右衛門が、「信長暗殺」を巡る権謀術数の渦に巻き込まれ、凄惨な血みどろの殺し合いを繰り広げ、苦悩を深めていく。
巡り合った女(藤村)との安らかな暮らしを求めるが、忍びの呪縛からは逃れることができない。
ここでの五右衛門は、操り人形のように言われるがまま動くしかない無力な犠牲者なのである。
巨大な力に反発しながらも抗いきれずに苦しむ五右衛門像は、雷蔵にピッタリの役柄だった。
それを象徴しているのが、三太夫に命じられて五右衛門が駆けていくシーンだ。
走る五右衛門の耳に、どこからともなく三太夫の声が聞こえてくる。
「そこを右じゃ」「違う。そこは左じゃ」「その川を渡れ!」……そして、言われた通りに進むと、そこには地獄絵図が待っていた。
飄々とした好々爺のように見せておいて、実は自らの権力の維持のためには手段を選ばない腹黒い首領を演じる伊藤雄之助と、残虐なサディストの信長を演じる若山富三郎という、五右衛門が対する二人の強大な敵に扮した両名優の凄まじい怪演も要注目だ。
中でも若山の信長は強烈だった。どこまでも残虐で憎々しいのだ。
「宗門の根絶やし」を掲げ、寺社を襲っては虐殺する信長に対して三太夫は配下の忍者たちを暗殺に走らせる。だが、誰もが皆、失敗して捕らえられてしまう。
そして、彼らには拷問が科せられる。それは口を割らせるためではない。信長自身が楽しむためだ。
「埋めてしまえ。首から上は出してな。できるだけ、死ぬ苦しみを味わわせるのだ」と女忍者を生き埋めにし、捕らえた忍者の耳を自らの手で削ぐ。
そんな信長を、若山は絶えずサディスティックな笑みを浮かべながら演じることで、残虐さをより強調していた。
いつも黒猫を厭(いや)らしく抱きながら残酷な命令を下し、いかなる攻撃も通用しない。
若山の巨大なシルエットは、「魔王」と恐れられた信長の姿そのものに映っており、それに立ち向かう五右衛門のサスペンスを盛り上げた。
【ソフト】
KADOKAWA(ブルーレイディスク)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、DMM.com、TSUTAYA、ビデオマーケット
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時
代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニ
メストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでい
ます。
●この記事は、6月11日発売予定の『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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