ryomiyagi
2020/06/22
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2020/06/22
■『次郎長三国志(全九部)』(映画 1952~54年)
製作:東宝/監督:マキノ雅弘/脚本:松浦健郎 ほか/原作:村上元三/出演:小堀明男、若山セツ子、河津清三郎、田崎潤、森繁久彌 ほか
マキノ雅弘監督が村上元三の原作を元に、侠客(きょうかく)・清水の次郎長(小堀)とその一家の活躍を全9部にわたって描いた作品だ。
涙あり、笑いあり、ハラハラドキドキあり、と、エンターテインメントのありとあらゆる要素が、広沢虎造の浪曲に乗ってリズミカルな演出の中に盛り込まれている。
中でも第二部「次郎長初旅」から登場する、森の石松に扮した森繁久彌が素晴らしい。
本作で森繁は注目を浴びて一気にスターへの階段を昇っていくことになるのだが、それも納得いくだけの芸達者ぶりを見せつけてくれている。
特に、石松が実質的な主人公となっている第三部「次郎長と石松」では、森繁の千変万化の芝居を堪能できる。
温泉宿で女侠客に惚れてしまった件は最高だ。
女が部屋に訪ねてきた時は肩をすくめて小さくなったり、風呂でもポーッとなって頭まで沈めてみたり、居酒屋で酔っ払った女の雪駄(せった)が脱げてしまい「履かせて」と迫られた時にはガチガチに震えながら履かせようとするものだから上手くいかなかったり、「女は眼で落とせ」という助言を真に受けて無理に流し目を作ってみたら緊張のあまり不自然な顔になったり……と、その一挙手一投足を見ているだけで楽しくてたまらない。
それだけに、石松が非業(ひごう)の最期を遂げる第八部「海道一の暴れん坊」は切なく迫ってくる作品だった。
次郎長の代わりに讃岐の金比羅(こんぴら)に参ることになった石松は、仲間たちから「女とのノロケ話」を土産に持って帰るよう言われる。
石松は見た目と吃音(きつおん)のせいで女性へのコンプレックスが強かったのだ。
そんな石松も、道中で一人の宿場女郎(じょろう)に見惚れる。
「俺に惚れてくれとは言わねえ。たとえ一日でも二日でも構わねえ、オメエさんの側に置いてくれて、惚れさせてくれたらいい」
石松の純な気持ちに触れ、女郎もまた石松を慕うようになる。
そして、石松は女郎を身請けすることになった。
が、そのために喧嘩の切っ先が鈍る。
因縁ある相手に囲まれてもいつもの威勢の良さはなく、「おい、よせよ、人違いだろ!」と弱々しくつぶやき、敵の兇刃(きょうじん)に倒れるのだ。
森繁の寂しげな表情が、胸に突き刺さってくる。
【ソフト】
東宝(DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、DMM.com、U-NEXT、TSUTAYA、スカパー!オンデマンド、ビデオマーケット
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニメストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでいます。
●この記事は、6月11日に発売された『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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