ryomiyagi
2020/06/19
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2020/06/19
■『赤穂浪士 天の巻・地の巻』(映画 1956年)
製作:東映/監督:松田定次/脚本:新藤兼人/原作:大佛次郎/
東映時代劇の魅力は、スターたちの煌びやかさ、華やかさにある。
片岡千恵蔵、市川右太衛門の「両御大」を筆頭に、大友柳太朗、中村錦之助、大川橋蔵、東千代之介らによる盤石のスターシステムの織り成す時代劇は1950年代の日本映画を席巻、全邦画収入の3分の1を稼ぎ出す人気を博した。
その覇権の象徴となったのが、お盆と正月に公開される「オールスター映画」だった。
スターたちが顔見世興行的に一堂に会する豪華で賑やかな作品たちは観客を魅了し、年間配収の上位に毎年続けてランキングされている。
中でも当時のオールスター映画の魅力が凝縮されているのが本作だ。
描かれるのは「忠臣蔵」の世界。主人公の大石内蔵助を演じる右太衛門はもちろん、大友、千代之介、錦之助といったスターたちの見せ場を過不足なく押さえつつ物語は進む。
ただ、他社の「忠臣蔵」映画と異なるのは、クライマックスが「討ち入り」ではない点にある。
オールスター映画の最大の売りは両御大の共演。これを際立たせるため、特別な場面が用意されている。
討ち入りのため江戸へ向かう大石は、吉良方の目をくらますべく近衛家用人・立花左近の名を騙(かた)る。が、伊豆の三島の本陣で本物の立花左近と鉢合わせしてしまう。これを演じるのが、千恵蔵だった。
両者は互いに「自分が左近」と譲らない。
少しして棚の文箱(ふばこ)に大石家の家紋を見つけた左近は、目の前にいる男の正体と真意を読み取る。
そして「自分は偽者」と譲り、自らの身分を示す一式を大石に渡すと、本陣を去っていく。
この義侠的な場面、大佛次郎の原作にはない。
「二大スターが善悪に分かれることなく自然に一つのシーンに共演する」ために用意されたものだ。
両者が初めて向かい合うまでのワクワク感、たっぷりと間を使った芝居による沈黙のもたらす重々しい緊張感、心を通わせ合った時に訪れる安心感。
二大スターが一つの空間にいる。そのたった一つの事実が、十分足らずの短い場面の間にこれだけの感情を去来させ、観客を満ち足りた気持ちにしてしまうのである。
【ソフト】
ハピネット(ブルーレイディスク、DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、DMM.com、U-NEXT、TSUTAYA、スカパー!オンデマンド、ビデオマーケット
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニメストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでいます。
●この記事は、6月11日に発売された『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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