ryomiyagi
2020/06/03
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2020/06/03
■『草燃える』(NHK大河ドラマ 1979年)
放送局:NHK/演出:大原誠 ほか/脚本:中島丈博/原作:永井路子/出演:石坂浩二、岩下志麻、国広富之、金田龍之介、二代目尾上松緑 ほか
本作は源頼朝(石坂)・北条政子(岩下)夫妻が鎌倉幕府の支配体制を確立していく過程が描かれている。
だが、本作の脚本を担当した中島丈博は、別の二人の人間をドラマの核に据えた。
一人は政子の弟・北条義時、もう一人は中島が創作した架空の人物・伊東祐之(すけゆき)だ。中島はこの二人の人生を巧みに交差させながら、鎌倉の光と影を照射していく。
そして、両者にはそれぞれ、若き気鋭の役者が配される。
義時を演じたのは、松平健。祐之を演じたのは滝田栄。
二人の若者は互いを激しく意識し、役柄同様に芝居を通じて壮絶にしのぎを削り合った。
序盤、親兄弟を北条一族に殺された祐之は復讐の鬼と化し、野盗(やとう)にまで身を堕としながら悪虐の限りを尽くす。
一方、義時は魑魅魍魎(ちみもうりょう)の跋扈(ばっこ)する鎌倉にあっても平和主義を貫く、慈愛に満ちた名門の御曹司(おんぞうし)だった。
これが後半になって逆転する。さまざまな人間の悲劇を目の当たりにし続けるうち、祐之は改心して仏門に帰依(きえ)、義時は政治闘争を繰り返すうちに権力欲に取り憑かれていく。
そんな光と影が交差する男たちの運命を、二人の若者は互いに「目」の芝居によって表現している。
滝田は復讐に燃えるギラついた瞳を、段々と清く澄んだ眼差しへ。松平は、理想に輝く瞳を野心のために淀ませていく。
そんな二つの「目」がぶつかり合う場面が、終盤に訪れる。片や貧しい者のために生きる僧として、片や邪魔者は全て容赦なく排除する権力の亡者として、二人は再会する。
「俺は当然のことをしているだけだ。鎌倉の執権としての北条の天下を守っていくために、味方につく者はつけ、殺すべきは殺す」
居直る義時だが、祐之も動じない。祐之の純粋な視線に耐えきれなくなった義時は、その目を奪ってしまう。
そして、最後は琵琶法師となった祐之が「盛者必衰(しょうじゃひっすい)」「諸行無常(しょぎょうむじょう)」と『平家物語』を吟じるシーンで幕を閉じる。
それを聞くのは、権力闘争の果てに全てを失い、ただ呆然とするしかないヒロイン・北条政子だった。物語としてのあまりの完成度に震えた。
【ソフト】
NHKエンタープライズ(DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、U-NEXT
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時
代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニ
メストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでい
ます。
●この記事は、6月11日発売予定の『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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