BW_machida
2020/07/01
BW_machida
2020/07/01
■『眠狂四郎 人肌蜘蛛』(映画 1968年)
製作:大映/監督:安田公義/脚本:星川清司/原作:柴田錬三郎/出演:市川雷蔵、緑魔子、川津祐介、三条魔子、渡辺文雄 ほか
『狂四郎』シリーズが成功したのには、魅惑的な数々の台詞の果たした役割も大きい。
「お前のような女を見ると、俺のひねくれた無頼の欲情がそそられる。愛撫のさなかに殺すつもりなら、俺が先に殺す。明日になればお前に興味はない。明日は他人だ」
こういった独特の言い回しの観念的な台詞を堂々と書いてのける星川清司の脚本と、それを衒(てら)いなく、かといって臭くならずに吟じてしまう雷蔵のエロキューション力。これが合わさって初めて、「狂四郎」はその独自の生命を得たと言える。
その極致とも言えるのが、シリーズ十一作目の本作だ。
「狂四郎」の世界を思いきって中世ヨーロッパに見立ててはどうか。
「ボルジア家の兄妹」を狂四郎と絡ませたら……。残虐な兄・チェーザレと淫蕩(いんとう)な妹・ルクレティア。
伝説的に語られてきたこのイタリア貴族の兄妹は、あまりに魅力的だった。
星川は、これを題材に書いた。
本作の悪役は将軍の落とし胤(だね)で、ある村の森に大きな屋敷を構える土門家武(川津)とその妹・紫姫(緑)の兄妹。
兄は村人を連れ去っては弓で射殺すことで毎日を過ごすサディスト、妹は持病の頭痛が起きると髪をとかしていた侍女を簪(かんざし)でメッタ刺しにして殺す癇癪(かんしゃく)持ちである。
特に終盤、狂四郎と紫の対峙するシーンの台詞の淫靡な応酬は凄まじい。
紫は狂四郎に自分と同じ「生き血の臭い」を感じ、誘惑してくる。
「下劣さでは黒ミサもそちらにかなうまい」と蔑む狂四郎にも、紫は「悪魔より私が上とは喜ばしい」と動じない。
すると紫は「狂四郎、私の肌を見て、そなたの目が少しでも燃えたら、私の勝ち。意のままになろうな」と裸になり、誘ってくる。
が、今度は狂四郎が「そんな眺めには慣れている。他に趣向はないのか」と突き放す。
逆上した紫は家来たちに狂四郎を斬らせようとするが、一蹴(いっしゅう)されてしまう。
その上で狂四郎は紫を見下しながら、抱く。
「外では烏が屍肉を喰らい、十字架に架けられた死人の前で死神を抱く。お前と俺と、二人で招いた宴だ。狂い叫ぶがよかろう」
雷蔵と星川の紡ぎ出す世界はもはや日本映画の枠を飛び越え、イタリア映画的な退廃芸術の様相すら呈し、エログロを超えた崇高な美しさを醸し出している。
【ソフト】
KADOKAWA(DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、DMM.com、ビデオマーケット
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニメストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでいます。
●この記事は、6月11日に発売された『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
株式会社光文社Copyright (C) Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved.