ryomiyagi
2020/06/15
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2020/06/15
■『宮本武蔵(5部作)』(映画 1961~65年)
製作:東映/監督:内田吐夢/脚本:鈴木尚之、成沢昌茂、内田吐夢/原作:吉川英治/出演:中村錦之助(後の萬屋錦之介)、入江若葉、木村功、高倉健、三國連太郎 ほか
内田吐夢監督、中村錦之助主演の『宮本武蔵』は、吉川英治の原作を1年に1作ずつ計5部作を5年かけて製作された超大作だ。
錦之助=武蔵はもちろんだが、それと対峙する共演者たちがいずれも素晴らしい。
まずは何と言っても沢庵和尚に扮する三國連太郎だ。
なんとも清濁併せ持った生臭い雰囲気を醸し出しながら武蔵の前に立ちはだかり、彼を掌中(しょうちゅう)で転がしながら人間として目覚めさせていく。
一方、武蔵の相方の又八を演じた木村功も印象深い。
又八は腰が抜けた役であるため、喜劇的な芝居を要求される。
内田はあえてここに、生真面目な二枚目のイメージが強い木村を配している。
木村の持つ雰囲気は、ともすれば身勝手でダラしないだけの男としか映らない又八を「弱さ故に時代に翻弄され、悩み苦しむ男」として映し出すことに成功。
己の力で運命を切り開こうとする武蔵とは正反対の、優柔不断で意志の弱い青年像を生々しく提示してみせている。
武蔵の宿敵・吉岡清十郎を演じた江原真二郎も絶品の芝居を見せる。
当初は名門のブランドに胡座(あぐら)をかいて酒と女におぼれていたのが、武蔵から果たし状が来ると一変。狼狽した顔で過ごすようになる。
その間、武蔵は全く登場しないだけに、清十郎に迫りくる「見えない恐怖」がかえって生々しく伝わってきた。
ある夜などは全く眠ることができず、道場の暗闇で一人、果たし状の文言を反芻(はんすう)。「今の儂(わし)には吉岡の二代目という重荷しか感じられぬ……」と身体を強張(こわばら)せながらつぶやくシーンには、エリートの温室育ちの貴公子だからこその悲哀がにじみ出ていた。
それだけに、武蔵の奇襲攻撃に無残に敗北し、ボロボロになりながらも、戸板に乗せられたまま街中を抜けて帰ることを拒み、必死に自分の足で帰ろうとする様には、せめて名門の当主としてのプライドだけは守り通そうとする悲愴感が漂っていて心打たれる。
そして誰より素晴らしいのが錦之助だ。
武蔵の成長に合わせ自身の芝居も変容していく。
特に第四部『一乗寺の決斗』での、70人を相手にした壮絶な立ち回りと、その折に子供を斬ってしまったことで苦悩する姿はいずれも鮮烈で、時代劇役者としての完成形とも言える芝居となっている。
【ソフト】
東映(DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、DMM.com、Google Play、iTunes、U-NEXT、TSUTAYA、ひかりTV、ビデオマーケット
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニメストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでいます。
●この記事は、6月11日に発売された『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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