縄田一男が読む『大一揆』百姓たちの熱き闘いを描く歴史長編

小説宝石 

『大一揆』 KADOKAWA
平谷美樹 / 著

 

盛岡藩の三閉伊を中心とした大一揆(いつき)を描く歴史エンターテインメントである。

 

主人公は、一揆のあり方に疑問を抱き、今回、はじめて加わる三浦命助。彼は、栗林村の肝入を何度も勤めた旧家の分家の出。正月に東(屋号)の当主が没したので、その代わりを務めており、過去に藩主の駕籠役を命じられるも、太りすぎということで免じられたという経緯があった。今はだいぶ身体がしぼられ、筋骨逞しい若者となった。

 

物語は、この命助の立場が、いわば、侍と百姓の中間にあるため、一揆仲間の信頼を苦労して勝ちとるまでが描かれーーだが、根強く不信感を抱いている者もいるーー命助の策略により、仙台藩に越訴しに行くことに決まる。

 

一揆勢は、どんどん膨れあがり、その中には、「お前たちが野臥であったのか、本当の一揆であったのか、ちゃんと確かめてやる」という、たせ婆もいる。

 

作品は、ダイナミズムの中にも、次第に心の底から一揆仲間と通じていく命助のありようを細やかなタッチで描いていく。

 

時は折しも、ペリーが浦賀に現れ、諸藩に動揺が走る頃ーー。その中で、三閉伊を仙台領にしてくれ、という命助らの願いは叶うのであろうか。場面が終盤に近づくに連れ、読者はこの一揆の顛末が成功するか否か、祈るような思いを抱くに違いない。

 

私がこの稿を草しているのは四月の初め。新型コロナウイルス蔓延のさ中である。そんな時、権力を持った政治家が正しくこれを行使せず、対策が遅れに遅れている場合、往時なら一揆が起きているのは否めない。

 

こちらもおすすめ!

『雨あがる映画化作品集』講談社
山本周五郎 / 著

 

映画化された名作六篇を収録

 

山本周五郎の映画化された作品のみで編集された傑作集。作品のセレクトに文句はないが、“編集後記”にも細心の注意を払ってもらいたかった。 「深川安楽亭」の映画化作品は、「いのちぼうにふろう」とあり、あらゆる資料にそう記されているので無理もないが「いのち・ぼうにふろう」である。また「雨あがる」は、二度映画化されており、初回は、長門勇、岩下志麻が三沢伊兵衛夫婦を演じた松竹作品「道場破り」である。結末も原作通り。

 

小説の映画化は難しいものだ。

 

『大一揆』 KADOKAWA
平谷美樹 / 著

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-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本がすき。」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

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