2020/03/13
小説宝石
『風神雷神Juppiter,Aeolus』上下巻 PHP研究所
原田マハ/著
俵屋宗達といえば、誰しも「風神雷神図屏風」を思い浮かべるだろう。
この「風神雷神図屏風」秘史ともいうべき画期的作品が登場した。それが原田マハの『風神雷神Juppiter, Aeolus』である。ここで私は、“誰しも”ということばを再び使わねばならない。何故なら、原田マハといえば、これまで、ルソーを描いた『楽園のカンヴァス』やピカソを描いた『暗幕のゲルニカ』など、ヨーロッパ美術史に材を得た作品が知られており、それがいきなり俵屋宗達とくれば、誰しも驚かずにはいられなかったということになる。
が、そこは原田マハ、この作者にしか書けない秘策があった。
では宗達とイタリア・ルネッサンスをつなぐものーーそれは天正遣欧少年使節団である。この使節団については、未だ謎が多く、ヨーロッパに渡った使節全員の名前すら分かっていない。その中に俵屋宗達がいたら、どうなるか。作者同様、私達読者もゾクゾクしてくるではないか。
京の扇屋の息子宗達が、狩野永徳に弟子入りし、信長の命によって「洛中洛外図」の完成を手伝い、さらにその信長の密命によって、使節団の中で唯一絵師として海を渡る。その密命については書けないが、宗達の風神雷神とアイオロスとユピテルが出会うシーンのめくるめく感動はどうであろうか。
物語は、プロローグとエピローグで京都国立博物館研究員の望月彩とマカオ博物館の研究員レイモンド・ウォンの、東西を分かたぬ「美」をめぐる幻想譚のかたちで、この一巻をくくっている。そして幻想譚であるからこそ、本書は大いなるロマンといえるのではないか。
こちらもおすすめ!
『完本 人形佐七捕物帳 一』春陽堂書店
横溝正史/著
横溝正史の捕物帳が完全復刊
近年、オンデマンドの捕物出版が、入手困難だった捕物帳を続々と刊行したり、ちょっとした捕物ブームの熱があるが、老舗、春陽堂書店が嬉しい全集を刊行してくれる運びとなった。それが『完本 人形佐七捕物帳』全十巻である。
春陽堂は、これまで一五〇篇を収めた文庫版『人形佐七』を出版していたが、今回は未収録だった三〇篇を加え、全一八〇篇を発表順に収録した完全版。さらに大衆文学関係の全集には珍しい詳細な本文校訂と解説。まさに“完本”の名にふさわしい出来栄えだ。
『風神雷神Juppiter,Aeolus』上下巻 PHP研究所
原田マハ/著