芸術を守り抜いた男たち 『美しき愚かものたちのタブロー』東えりか

小説宝石 

『美しき愚かものたちのタブロー』文藝春秋
原田マハ/著

 

今年、創立六十周年を迎えた国立西洋美術館は、二十世紀のモダニズム建築の巨匠と称されるル・コルビュジエと三人の日本人の弟子が設計したことで二〇一六年に世界文化遺産に登録された。

 

この美術館の収蔵品の中核を成すのは、「松方コレクション」と呼ばれる美術品だ。戦後、フランスから日本へ寄贈返還されたのは三七五点。しかし神戸の川崎造船所の社長、松方幸次郎が集めたのはモネやゴーガン、ゴッホの絵画、ロダンの彫刻、そして日本の浮世絵など一万点にも及んだという。第一次世界大戦によって巨万の利益を得たことで、松方は日本に世界に誇る美術館を作ることを夢みる。専門家のアドバイスを受け、ヨーロッパの様々な美術品を買い集めた。

 

だが昭和の金融恐慌で会社は危機に陥り、コレクションは散逸、その上、第二次世界大戦の勃発で、フランスに留め置いた作品も行方不明となった。

 

本書は数奇な運命を辿(たど)った「松方コレクション」を美術史家の田代雄一(たしろゆういち)の視点を中心に、近代絵画史、松方の収集時のエピソード、当時のパリの風景、世界経済と戦争の歴史とともに描写していく。稀代の美術収集家、太っ腹な大金持ちである松方幸次郎の豪放磊落(らいらく)さに惹かれた男たちと、芸術に取りつかれた男たちが「松方コレクション」を収集した経緯、そして取り戻すまでを生き生きと描いていく。

 

著者は架空の人物を織り込みながら、戦時中、実際にナチス・ドイツからコレクションを守った男の切ない人生に思いを寄せる。

 

松方の愛したモネ、ルノワール、ゴッホの絵画をいま国立西洋美術館で展示している。この絵たちの辿ってきた道を知れば、必ず鑑賞したくなるだろう。

 

 

こちらもおすすめ!

『サカナ・レッスン』
キャスリーン・フリン・著/村井理子・訳

 

人生が豊かになるサカナ料理

 

フランスの料理学校ル・コルドン・ブルー卒業のアメリカ人料理家でジャーナリストのキャスリーン・フリンは、二〇一七年に上梓した『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(きこ書房)で料理が苦手な女性たちの心をがっちりと掴んだ。

 

次に選んだテーマがサカナだ。日本人でも苦手意識が強いサカナの料理を日本で学ぶために来日した。時は築地市場が豊洲に移転するタイミング。日本人にとってサカナを食べることがどんな意味を持つかを知る。やがてそれは自分自身の幼少時、家族の記憶に結び付く。国も人種も関係なく、料理に躊躇する人の背中を押してくれる一冊だ。

 

 

『美しき愚かものたちのタブロー』文藝春秋
原田マハ/著

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-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本がすき。」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

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