2019/07/23
清水貴一 バーテンダー・脚本家
『ゴミ清掃員の日常』講談社
滝沢秀一/原作・構成 滝沢友紀/まんが
癖というものはどうしようもなく厄介なものだ。気のせいかもしれないが、よい癖よりも悪い癖のほうが色濃く身体に染みついていることが多いのではと思ってしまう。
わたしの場合、幼い頃から爪をかむ癖が今でもやめられないでいるし、酒を飲むと簡単に本腰が入ってしまい進んでヘベレケ地獄へと陥る酒癖もあるし、好みのタイプの女性と対峙すると、声のトーンを低くして渋い声を演出してしまうという世にも不毛な癖もある。
実際これらの、百害あって一利無し癖を幾度となくやめてやろうと心に誓ってはみるものの、どうにもやめられないのである。
それは、顔に浮んでいるほくろやそばかすと同様で、自分の身体の一部になってしまうほど同化しているわけで、それを取り除こうと思うのなら、断固たる決意はもちろん、取り除くまでの時間的捻出や、時には金も必要になるのかもしれない。
つまり、癖をやめたければ、癖をやめようとする強い意思の癖をつけなければならないのであるが、その意思がなかなか続かないのである。
世の中の代表的なものといえば、ダイエットや禁煙や禁酒、あるいはセックス依存や浮気癖といったことも挙げられるかもしれない。
しかし、もし癖をやめようとする癖を身につけ、癖を見事にやめることができたらどうだろう?
それってもしかして、よい癖を身につけるための癖を身につけることと同じことではないだろうか?
やめられるなら始められるだろ?
などと、禅問答のようなことを考えてしまう。よい習慣や癖を身につけることができたら、人生の成功の半分は手に入れたと言っても過言ではないのだから。
著者は、お笑い芸人のマシンガンズの滝沢さん。芸人の収入が少なく、極貧生活の中で辿り着いた清掃員のアルバイトを通じて、ハートフルタッチで展開する超ストイックノンフィクションだ。東京のゴミ処理場のお仕事や清掃員たちの日常をとてもリアルに描いている。
とくにペットボトルの分別は、キャップ、ボディ、ラベル、この三つを分けて捨てなくてはならないというのは知っていたが、しっかり分別しなかった場合、その後どうなっていたのかはまったく知らなかった。店では分別は行なっていたが、外出時ではゴミ箱にそのまま捨てていたから気になる話だ。
さて、わたしが捨てたペットボトルはいったいどうなっていたのか?
それは清掃員がゴミ処理場に持ち帰ったあと、一つひとつを手作業で分別していたのだ。なんと気の遠くなる作業!
そして、夏はさらに地獄と化すようだ。
そして、大量の分別ゴミの中に不純物が混入し、それを見過ごしてしまった場合、いったん装置を停止しなければならず、また手作業で原因を探る。
さて再開しようと装置を起動するときにかかる費用は、一回でざっと200万、場合によっては300万ほどかかるようだ。
それが税金でまかなわれているとは考えさせられた。わたしたち一人ひとりがどうゴミを出すか、まさにどのレベルをスタンダードとして考えなければならないかを問われる一冊になっている。
よい癖を毎日続けると、よい習慣が身につくならば、この分別問題はさっそくスタンダードの習慣にしたい。そうすることで、今の社会をなんとなくでも理解できるような気がする。理解への入り口はどこからでもいいのだと、この本は教えてくれた。
『ゴミ清掃員の日常』講談社
滝沢秀一/原作・構成 滝沢友紀/まんが