「女の一生、もう婆さん」? ことわざのようなラストが光る名作『女の一生』

金杉由美 図書室司書

『女の一生』光文社
モーパッサン/著 永田千奈/翻訳

 

 

むかし、働いていた書店で実際にあった会話。

 

「店長!お客様から本の問合せなんですが」
「なんていうタイトル?」
「『女の一生、もう婆さん』っていうんですけど!」

 

違―う!違―う!

 

もう婆さん、いや、モーパッサンが33歳の時の作品である「女の一生」。
主人公は父母の愛に包まれて美しく育った貴族の娘ジャンヌ。
若くして結婚したものの、妻を裏切った夫との生活に絶望し失意の日々を送る。

 

この旦那がドケチだし浮気者だし、現代でいうところの典型的なモラハラ男。
ジャンヌの父は生活力も想像力もあまりない人だけど鷹揚で根っからの善人なので、なおさら夫のしみったれた性格の悪さが強調される。恋愛中はあんなに優しくて情熱的だったしイケメンだったのに、すっかり外見にも気を使わなくなってヒゲ面のダサいおっさんになっちゃった。
でもそんなダサメンが急にヒゲをそって貴公子っぷりを取り戻す。
なんでかっていうと、他の女性に恋したから。実にわかりやすい。どんだけわかりやすいかっていうと、世間知らずなジャンヌでさえ気がつくくらいわかりやすい。

 

この旦那に散々あれこれ苦しめられるジャンヌだけど、最終的には旦那も父母も友達もいなくなり、残されたのは最愛の一人息子。なので溺愛。これでもかと愛情を浴びせまくる。息子が先生に怒られようものなら学校に怒鳴りこむ。現代でいうところの典型的なモンスターマザー。
そりゃーこんなに甘やかし放題にされた息子がまともに育つわけもなく、あきれるほどの馬鹿息子に仕上がる。それでもひたすら息子に尽くすジャンヌ。元々ダメンズウォーカーの素質たっぷりなんで仕方ない。
で、浪費の果てに借金しまくる息子の尻拭いで財産が尽き果てる。

 

うわーん、どうしよう!息子が困ってるのにお金をあげられなーい!息子が泣いちゃう!かわいそう!うわーん!タスケテー!

 

そこに現れたのは正義の味方。じゃじゃーん!

 

まあその正義の味方のおかげで何とか事態は収拾され、気がついてみれば老いたジャンヌは孫を腕に抱いている。
「人生って、言うほど良くも悪くもないわよねー」なんてつぶやきながら。

 

波乱万丈の人生の果てにたどりついた「人生万事塞翁が馬」とか「人生はあざなえる縄のごとし」なんて故事成語を思い出させるラスト。

 

あれ?よくよく考えてみれば…?
『女の一生、もう婆さん』、あながち間違ってない。
このラストを一言で言いあらわすなら、ずばりそれ。

 

ジャンヌの人生に何が起きたのか詳しく知りたい方はぜひ読んでみてください。
本屋で「『女の一生、もう婆さん』の新訳下さい」って言ったらきっとサッと出てくるから。

 

【こちらもおすすめ】

『傲慢と善良』朝日新聞出版
辻村深月/著

 

父母に箱入りに育てられた地方女子。
彼女が婚活で手に入れようとしたものは?
ページを追うごとに背すじが寒くなる、身もフタもないほど厳しい物語。
辻村深月版の『高慢と偏見』だけど、元ネタよりずーっと恐ろしい。

 

『女の一生』光文社
モーパッサン/著 永田千奈/翻訳

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

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