2019/07/18
横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店
『みなとまちから』『とおいまちのこと』佼成出版社
nakaban/著 植田真/イラスト(『みなとまちから』)
植田真/著 nakaban/イラスト(『とおいまちのこと』)
はじめて行く場所、はじめて見る景色。
見なれた、したしみのある毎日をはなれることでくっきりと、うかびあがることがある。
それは、日常の中でかきけされ、耳をすまさないと聞こえないような、ちいさくも大切なことをおしえてくれる声。この景色をともに味わいたかったと、思い浮かぶひとの顔。
ひとりで体験するはじめては、こころもとない。けれど、その場所に立つことでしか知ることのできないわたしがいる。
『みなとまちから』と『とおいまちのこと』はふたりのえほん作家が紡いだ物語にたがいが絵をかいた、あたらしい試みのえほん。途中には、物語をつむいだ作家がみずから絵をかいたページがあり、そこにはふたつの物語をつなぐモチーフが描かれている。
『みなとまち』におりたったのは、きつねのぼく。はじめておりたった街では、いつもは通りすぎるけしきやおとが、ふと、こころにとまる。はいいろのそら。きれいないし。かもめのこえ。とおくのかみなりのおと。こころにとまったあれこれを、ぼくはノートにかきとめる。
あめはやまない。みちにもまよった。あまやどりのカフェでねむってしまったぼくは、ふしぎなゆめを見る。あおいふうとうが、でてくるゆめ。思いだすなつかしいばしょ。こうちゃは冷めてしまったけれど、たいせつなことを思いだした。
あの人に、てがみをかこう。
『とおいまちのこと』でも、ふりつづけているのは、あめ。いえのなかでは、おちゃのじゅんびがすすんでる。
〈コツン コツン コツ コツ〉
ゆうびんうけから、きこえてきたおと。なかをのぞくと、あおいふうとうをくわえた、ことりが飛びだしてきた。ふと、「みなとまち」にいるともだちのことを思いだす。ぼんやり、ふんわり、思い出す。おゆがわいた、おちゃのじかんだ。みなとの描かれたカンから、こうちゃをとりだす。そうだ、てがみがとどいているんだった。うっかりてがみにこうちゃをこぼしてしまったけれど、だいじょうぶ。
〈とても とても しずかです ぼくは みなとに います〉
きこえてきたのは、やっぱりあの人のこえだった。
ふたつの物語をつなぐのは、あめ、こうちゃ、てがみ。そして、互いをたいせつに想うきもち。
あめのなかでも、ひとりぼっちでも。たいせつな人を想うきもちは、届く。想いはことばに形を変えて、風にのり、やがて、ふわりと目の前にさしだされる。
ほんとうに大切にしたいのは、そう、こんなシンプルなことなんだ。
『みなとまちから』佼成出版社
nakaban/著 植田真/イラスト
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『とおいまちのこと』佼成出版社
植田真/著 nakaban/イラスト