akane
2019/10/31
akane
2019/10/31
市川 というわけで、もう1点、ちょっと、本を紹介したくてですね。こちら絶版ですよね?
寺島 たぶん。
市川 もちろん、そうですよね。キンドルでは読めます。講談社さんから出ている『月刊マガジン』で当時連載されていた『最狂超プロレスファン列伝』、徳光康之さんの作品をちょっとお持ちしました。これはですね、全4巻あるんですけど、基本的に「プロレスあるある」で構成されてはいるんですけど、だいたいですね、プロレスを差別するやつ、悪口を言うやつをこらしめるという内容になっておりまして。
―ギャグ漫画? ちょっとコメディっぽい感じなんですか。
市川 もちろん、ギャグ漫画ではあるんですけど。ねえ。
寺島 どギャグ漫画ですよね。
市川 どギャグ漫画です。ただですね、どっかやっぱりね、ファンとしての、非差別者としてのちょっと悲しい哀愁が漂っていて。これはめちゃくちゃ面白いんです。
普通に「あるあるネタ」としてもすごい面白いんですけど。脇形恵というキャラクターがおりまして。これはプロレス同好会の話なんですけど、脇形恵という人が、藤原組長っていう人、知っていますか(笑)。
―はい、さっき(教えてもらいました)。
市川 藤原組長の大ファンで。デパートで握手会をやると。藤原組長と握手ができるんだったっていうことで、デパートへ行こうとするんですけど、最中でですね、ゲームコーナーで子どもたちがね、『スト2』をやっているんです、これ。
リュウって空手家なんですけど、プロレスラーのザンギエフと戦って。「ああ、レスラーが空手家に負けている」って、脇形恵が思っていて。子どもたちが言うわけです。「ダメだ、プロレスラーはやっぱり弱いや。やっぱりレスラーじゃ勝てない」。
って言うと、脇形恵が「バカヤロウ!」と。「俺がレスラーを扱ってやる」って言って、戦うわけです。これ、面白いんですけどね、なぜ、組み合って腰を落とす前に投げ技が出るんだって。これはファイプロの話。もう全然わかんないですよね。
※「リュウ」「ザンギエフ」……いずれもストリートファイターシリーズに出てくるキャラクター。リュウは「波動拳」「昇竜拳」などでおなじみの、主役的存在。ONE PIECEにおけるルフィのようなもの。ザンギエフはソビエト連邦出身で「赤いサイクロン」の二つ名を持つプロレスラー。傷だらけの体に剛毛が生えており、子供から好かれにくいことは容易に想像できる。
―全然わかんない。
市川 そう、そう。最後はゲームのデータに反映されていないはずのアキレス腱固めで。プロレスの神様、カール・ゴッチの力を得て、アキレス腱固めで勝つっていう。もう全然わからない。
―全然、わからない。ポカーン状態ですからね。
寺島 本当に、全然わからない?
市川 これはめちゃくちゃ名シーンですよ。
寺島 名シーンですよね。だって、ないんだもんね。
市川 ないんだもん。
―ザンギエフの持ち技にない?
市川 ないんです。だって、ゴッチの力を借りないと出てこない技だから、これ。
寺島 裏技を出したんですね。
市川 そう、裏技を。フッカーですよ、フッカー。
寺島 プロレスを思う気持ちが奇跡を起こしたっていうシーンですね。
市川 そう。それで、脇形恵は結局、握手会には行けなかった。
―ああ、その勝負をしてたから?
市川 そう、そう。もう終わっちゃっていたんですね、握手会が。でも、子どもたちに、自分はプロレスを啓蒙することができたと、だから俺は満足だと。きっと組長も喜んでくれているはずだっていう話が終わるんですけど。このくらいプロレスファンは病んでいたんです。
寺島 この1巻の帯で、大仁田厚氏が推薦しているんですけれど、「この漫画は邪道じゃ。だから読んでやってほしいんじゃ」っていう、もうね、邪道って言っちゃってる。
―(笑)。
市川 (笑)そうですね。
寺島 王道じゃないんですよ。
市川 王道じゃないんです。でも、こういうファンZINEじゃないけど、ファン漫画ってね、今はけっこう多いですよ。
寺島 多いですよ。
市川 それこそ(広島)カープとか、(横浜)ベイスターズだってあるし。
寺島 いっぱいありますよね。地域で出しているようなやつとかね。
市川 それこそプロレスのファン漫画とかもあるから、20年ぐらい早かったんです。
―先取りしすぎたんですかね。
市川 そう、そう。
寺島 今だったら王道。
市川 王道。
―要は虐げられているなっていう人たちがいたから、その人たちは心に刺さったんですか、これは。
市川 刺さった。だってもう、僕はこれを見て、アキレス腱固めのくだりで泣いていましたからね。もう、笑いはしないですよ。いや、本当に、「ああ……」って。
寺島 このアキレス腱固めで、やっぱり市川さんは泣いて、僕は『1・2の三四郎2』の、ラストのブレーンバスターで泣いていますからね。
市川 知っていますか、『1・2の三四郎2』?
―知らない。
寺島 1じゃないです。
市川 1じゃないです。
―(笑)1じゃない、2のほうですね。
寺島 はい。ちょっとここには、手元にはないんだけど。
市川 そう、赤城欣市が三四郎との試合で、シュシュシュシュって、何か丹田呼吸みたいなのをやるじゃないですか。
寺島 あれね、火の呼吸みたいなね。
市川 そう、そう。そうすると、三四郎が「ううん?」って。何かね、すごい苦虫を噛み潰したような顔をするんですよ。僕、あのくだりがすっごい好きで。すべってんじゃん、こいつみたいな、たぶん感性なんですよね。
寺島 そうですね。
市川 そう。だからプロレスラーとしてあくまで格闘技の試合でも戦うっていう。もうね、本当にでも名作ですよね、あれは。
寺島 あれは名作ですね。あれは本当に、もっとわかりやすく、格闘技というのがどんどんどんどんプロレス界を侵食して、プロレスラーっていうのが弱いんじゃないかと言われている世の中で、三四郎がリングに乗るんですよ、総合格闘技の。最終的には勝つんですけど、最後決め技が、どプロレス技のブレーンバスターで。
市川 ああ、勝った! 上がったってみんな言う。
寺島 そう。その前にやっぱりバイクを。
市川 そう、そう。
寺島 バイクをブレーンバスターする練習を積むんですよね。
市川 お前は練習をやってんのかって言ってね。そう、そう。
寺島 そういうので、それもまた1つ、名作漫画ということですけど。ちょっとまた脱線しちゃいましたけど。
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