akane
2019/06/27
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2019/06/27
市川:はい、こんにちは。「ぼんくRADIO」のお時間でございます。
―よろしくお願いします。
市川:こないだの収録では飯伏プロレス研究所のパーカーを着ていたんですけど、今回はなんと。
―なんと。
市川:光文社新書1000点突破記念、アランちゃんTシャツで臨んでおります!
※アランちゃん……光文社新書のキャラクター。公式設定はないのだが、著名デザイナーのアラン・チャン氏がデザインしたため、編集部内では密かにこの愛称で呼ばれている(ダジャレか)。
―宣伝ありがとうございます(笑)
市川:いや、すごいいいデザインで。サイズ展開もS/M/L。デザインはあと何があるんでしたっけ?
―写真をこのあたりで載せると思いますが、アランちゃんと、『バッタを倒しにアフリカへ』のバッタTシャツ。バッタというか著者の前野さんなんですけど(笑)
あとは『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』をモチーフにしたTシャツですね。結構おしゃれな感じ。
―早川書房さんがイケてるTシャツを売りまくっているので、それを見習って、普段使いできるファッショナブルな感じをコンセプトにしています。
市川:「本がすき。」のホームページに取扱店舗が載っていますので、ご購入下さい。
―のっけから番宣というか宣伝というか……(笑)
ちなみに光文社新書は1000点を突破しまして、その記念でTシャツ以外にも小冊子を作りました。今までの1000点でこれが一番面白かったというのを色んな著名人に寄稿してもらっているんですけど、市川さんにも寄稿いただきまして。
市川さんは何を選んだんでしたっけ?
市川:えーと、『99.9%は仮説』。前々回に紹介した。
―市川さんが売りまくったというやつですね。詳しくは冊子を見ていただければと。
市川:造りがすごいんです。
―そうですね。(冊子自体を)光文社新書風にしようと。
市川:この連載もね、長く続いたら「ぼんくRADIO Tシャツ」を作ってもらいます。よろしくお願いします(笑)
市川:で、今回もゲストをお招きしております。中央公論新社……噛んじゃったw
―TAKE2で。
市川:中央公論新社編集部の金森航平さんです。
金森:よろしくお願いします!中央公論新社編集部の金森です。
―書籍編集局文芸編集部。
金森:はい。小説の編集をさせていただいております。
市川:今回金森さんをお招きしたのは、前回の収録で「歴史小説はもう少し、スマホゲームとかで歴史に親しんでいる層にアプローチできるんじゃないか」という話をしていて。じゃあちょっと、そういう仕掛けをしてみようかと(金森さんに)ご賛同いただきまして。
―前回はうちの園原さんに出ていただきましたけど、今回はそれの実践。金森さんが実際にやっているということで。
市川:そうですね。実践編!よろしくお願いします。
金森:よろしくお願いします~。そうですね……あ、黙っちゃってごめんなさい(笑)……
―(笑) じゃあ今回は、実践してもらった本の話をしてもらおうと思ってまして。どういう本になるんですか?
金森:矢野隆(やのたかし)さんの『鬼神』(おにがみ)という歴史小説でして、題材が平安時代なんです。「大江山酒呑童子絵巻」っていう……
―全然わからないです(笑)
金森:ざっくり言ってしまうと、鬼が大江山という京都の山に住んでいます。それを頼光四天王という、源頼光と配下の四天王たちが退治に行く。お酒を飲ませてべろんべろんになったところを首をぶった斬って鬼を退治しましたよ、という絵巻物が実際にあるんですけど、それを矢野隆流に解釈したお話です。
―じゃあ市川さんの好きな、「血沸き肉躍る」感じですか?
市川:血沸き、肉躍ってましたね~!(笑) すごい面白い作品で、敵役ではあるんですけど酒呑童子がすごく魅力的な描き方をされていて。
金森:元々は「酒呑童子絵巻」だと鬼、妖怪という立場なんですけど、この作品では人間なんです。だけれど、都に住む人とは違って、山に住んでいる。都の埒外にある「まつろわぬ民」なわけです。
※まつろわぬ民……権力にあらがい、従わない民のこと。すなわち(大和の)朝廷に従うことをよしとせず、平定事業に抵抗を続けた人々。“蝦夷(えみし)”と呼ばれた者たちもこれにあたる。
そんな奴らは都の人からすると「あいつらは人間じゃない。鬼だ」と。鬼だから、まつろわないから退治していいんだぜ、と。
「大江山には地の宝が眠っている」、これ要は銅のことなんですけど、それを都にいる藤原道長とか安倍晴明なんかの権力を握っている者が欲しがって、鬼と呼ばれる人たちを謀略に嵌めて、源頼光ら四天王を送り込んで退治させるという話。なんですけど、敵役であるはずの酒呑童子が非常に魅力的。
市川:僕の中では、「ラスボス感」があったな。デスピサロ的な。配下の人たちや民衆にもものすごく慕われていて、すごく強くて。
―強くてカッコいい。
金森:都の奴らに嵌められて、民を守るために仕方なく都に出て盗みを働いたり。「こいつらを守るために俺は鬼になりきってやるぞ」と。デスピサロなんですよ(笑)
― 一応この辺でデスピサロの注釈が入ってきますので(笑) ドラゴンクエストのね。
※デスピサロ……ドラゴンクエスト4のラスボスである魔族の王。部下たちからは絶大な支持を得ている。愛するエルフの少女ロザリーを人間によって殺された模様。
元々はピサロという名前の魔族の青年(イケメン)なのだが、デスピサロ第七形態はバケモノとしか形容できない姿なのでグロ注意。DSリメイク版の追加ストーリーは賛否が別れるところ。
金森:今仰っていただいた通りで、この帯も市川さんに書いてもらって。
市川:「酒呑童子のラスボス感が半端ない!」というコピーを作らせていただきました。単行本は酒呑童子と坂田公時(主役)が並んでいる想定だったんですけど、ぜひ文庫化に際して酒呑童子のほうをドカン!とやっていただけたら、という話をしたら「いいじゃないか」となって。でも、大分〆切が……(笑)
金森:私と営業担当と市川さんの3人で飲む機会がありまして。
市川:プロレスの映像が流れる焼肉屋さん(笑) その時、単行本のままの装丁でいくことに決まったという話をしていたんですけど、ちょうどその時に流れていた真壁刀義ばりの暴走ファイトを仕掛けまして(笑)、装丁はこんな感じでラスボス感を出してもらえないかと話をして。
※真壁刀義……新日本プロレスのプロレスラー。本名および昔のリングネームは真壁伸也。無頼派として知られる。
―決まっていたのに「いや、こうしてくれないか」とやったわけですね。
金森:それを聞いて私も「あ、なるほど」となっちゃいまして(笑) 次の日に印刷所へ入稿するはずたったんですけど、こっちの方が売れるなと思ったのでやめようと印刷所へ電話して。
―入稿直前にひっくり返した。
金森:〆切直前だし、普通に怒られるだろうなと思ったんですよ。デザイナーにもいきなり、全部デザインを変更しろと言うわけだし。
― 一番怒るのはそこでしょうね。どう考えても(笑)
金森:イラストレーターさんも。単行本の時は5人くらい(カバーに)出てくるんですよ。でもそれを全部使わないで酒呑童子1人にした。営業担当としても、他にもコメントをもらってくれた書店員さんもいるし。これ大丈夫だろうかと?
―方々に頭を下げなきゃいけない予感が……(笑)
市川:すごい今、罪の意識が(笑)
金森:で、実際に電話をかけてみたら誰も怒らなかったんですよ。なぜなら、全員ドラクエ好きだったから。
―なんていい話。
市川:ドラクエが紡いだ。
金森:イラストレーターが鈴木康士さんというゲーマーで、「すみません、実はちょっとドラクエ感を出したくて……」と言ったら、「ちなみに、誰ですか?」と。「デスピサロなんですよ」「なるほど~。ウルノーガにも似てますよね」って。全然許してくれて。
※ウルノーガ……ドラゴンクエスト11のラスボス。スイッチ版で出るのが楽しみすぎる。
著者の矢野隆さんにも見せて、同じようなことを言いました。矢野さんってすごいゲーマーなんですよ。そもそもデビュー作が『蛇衆』っていう集英社さんから出ている本で。戦国時代の傭兵集団の話なんです。傭兵で蛇といえば……スネーク。メタルギアソリッドなんですよね。だからドラクエっぽくしたいと言ったら快諾してくれて。
市川:20歳くらいの時にファミコンが出た世代ももう60歳になっているわけじゃないですか。
―後期高齢者の方とか以外は……。その世代でもやったこと自体はあるでしょうからね。
市川:ゲーム好きの層っていっぱいいる。
―もはや「若者のもの」という括りではない。老若男女が触ってきて、カルチャーとしての下地がちゃんとある。
市川:だからこの装丁も「しゅてんどうじが あらわれた!」みたいな。明らかに2回攻撃してくる。
―マジで殺されて鬱になるやつ。ギガンテスに囲まれた。
金森:一回の攻撃が全体攻撃。
―薙ぎ払われるやつ。
市川:ずっとベホマかけないと。
金森:回復役が絶対必要。スクルトとかもないとキツイ。
市川:でも僕「ラスボス感が半端ない」というコピーを考えた時に、ラスボス感ってそもそもなんだろうと検索をかけたんですね。
―「ラスボス とは」。
市川:思ったのが、アベンジャーズ。今「エンドゲーム」とかやってますけど、アベンジャーズのラスボスはサノスっていうすごいでかいキャラクターなんですよ。
―サイズがでかいんですか?
市川:そうそう。明らかにこいつ絶対強いだろうなっていうキャラ。
でも日本のラスボスって、『DRAGON BALL』だとフリーザとかベジータとか、シュっと小っちゃくなってないですか。
―でかさ=強さではない。最初はそういうやつもいるんですけど、大体中ボスくらい。最後は一周周って小さい。
市川:そう。ベジータだとナッパ、フリーザだとドドリア……いや、ザーボン。でっかいやつを従えてるんですよ。「でっかいやつさえもコイツには敵わない」っていうところで(強そうに見せる)。日本のラスボスって可視化できない強さ。それはお国柄の違いなのかなとかと思って。
―得体の知れなさですね。
金森:ファミ通の「平成最高のゲーム」というランキングで1位に選ばれたのが『クロノ・トリガー』。
―僕も今それ思いました。ラスボスがね。ラヴォス。
金森:ラヴォスって(最初は)でっかいんですよ。でも最後の形態はヒト型。
―しかも(3人いるのに中央じゃなくて)左が本体、コアなんですよね(笑)
金森:デスタムーアでいう手が本体みたいな。
市川:僕、ルッカのお母さんを全然助けられなかった。延々やってましたよ、あれ。
―L・A・L・A。ルッカは(一応続編の)クロノ・クロスにも出てきますから。
金森:炎を使う。
市川:……これ、なんの話だ!?(笑)
―ラスボス論はまた次回のテーマとして。ラスボスとはなんぞや(笑)
市川:だから、どちらかというとこの『鬼神』の酒呑童子は人間的。ドラクエだと「りゅうおう」じゃなくて「デスピサロ」。
金森:完全な悪ではない。
―カッコいい、惚れる感じ。
市川:シャア・アズナブル。
―なるほど。わかりやすいですね。ちなみにFGOだと酒呑童子は可愛い女の子になっています。こんな感じ(画面を見せる)。
金森:あ、女子だ。
市川:また女体化が(前回記事の『聖闘士星矢』で瞬が女体化したエピソードを思い出して)。
―(酒呑童子の)同人誌が最近めちゃくちゃ多いんですよ。どうでもいい情報。
市川:(このラジオ自体が)ほぼどうでもいい情報なんで大丈夫です(笑)
金森:ちょっとすいません。話を掘り下げると、市川さんが「ラスボス感が半端ない」の下に「兄貴的魅力と圧倒的強さ」というコメントをくださっているんですけど。これ実は、作品の中に裏テーマがあって。「グレンラガン」(『天元突破グレンラガン』)っていうロボットアニメ。
―へ~。
金森:僕も矢野さんもグレンラガンが大好きで、飲み会でその話になった時、当時『鬼神』の執筆中だったので「君は僕の担当になるべくしてなった」と。酔っぱらいながら(笑)
市川:それは完全に酔っぱらってますね(笑)
金森:そしたらそのまま(『鬼神』の中に)グレンラガン的モチーフを入れてくれた。カミナっていう兄貴分的な存在がいて、その人物造形が酒呑童子の中に入っている。グレンラガン見ていない人にはネタバレになってしまうけど、途中でカミナって死んじゃうキャラで。そのカミナの最期のようなシーンがクライマックスに組み込まれていたり。
市川:グレンラガン……。
―「キルラキル」は好きなんですけどね。同じガイナックス。グレンラガンは見てないんですけど、「最後は何でも気合で解決する最高のアニメ」と聞いたことがあります(笑)
※キルラキル……ガイナックスではなく、そこから独立して立ち上げられたトリガーが制作しているアニメ。こちらも最&高。
金森:最終的に銀河系をぶん投げる(笑)
市川:すごい。なんだそれ(笑)
―めちゃくちゃ面白そう。
市川:『ウダウダやってるヒマはねェ』という不良漫画が昔チャンピオンでやってたんですけど、はじめは他校の生徒を相手にしていたのに、最後は悪の秘密結社に素手で挑む(笑) 死んだ奴が生き返ったり(笑)
金森:マトリョーシカ的。ロボットがでかいロボットを操縦して、そのロボットがまたもっとでかいロボットを……。
―今回はグレンラガンという裏モチーフがあったとのことですが、そういう「裏テーマ」があるパターンは多いんですか?珍しい?
金森:あると思いますね、結構。矢野さんの場合は大体作っている。
―それは編集と共有している場合もあれば、こっそり著者さんが作っていることも。
金森:新潮社(の本)は「仮面ライダー」って言ってました。
市川:(笑)
―面白いですね!そういう裏テーマを知りたいし、こっちで気づいて言いたい。
市川:知りたい。「こういうのがあるよ」って言われたら、また違う視点で見れる。面白いですね。
【後編へ続く】
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