ryomiyagi
2020/09/24
ryomiyagi
2020/09/24
―ということで、書店は無事に営業再開しておりまして。最近はどういう本が売れているんですか?
市川:全国的にでしょうけれど、カミュの『ペスト』。
―あー、売れてますよね。
市川:やっぱりこういう状況もあって売れている。ですけど、うちのお店ではそれを上回っているタイトルがございまして。
―おぉ、『ペスト』を超えた本が。
市川:ハルキ文庫、浦賀和宏さんの『殺人都市川崎』。こちらが爆売れしております。
―強烈なタイトルですね!(笑)『殺人都市川崎』。
市川:浦賀和宏さんが急逝されてしまったので、結果的にこれが最後の小説になってしまっているんです。
―最近ですか?
市川:5月発売のタイトルです。これが川崎市民にとってはめちゃくちゃ面白い。「ご当地もの」の小説って最近増えてきていると思うんですけど。
―代表例は京都ですね。ほかにも全然普通の街でもありますね。
市川:これに関してはタイトルから想像できると思うんですけど「翔んで川崎」ですね。「翔んで埼玉」ならぬ。「川崎ディスり」がかなり激しくて、タイトル自体もハルキ文庫さんは結構悩んだそう。『殺人都市川崎』って大丈夫かな……?みたいな。
―川崎市から何か言われる、とまではいかないにしても、イメージというか。かなり強烈なタイトルではありますからね。
市川:なので、僕もちょっとしたアドバイスをしまして。バカ負けするくらいのタイトルのほうが、逆にいいのではないかと。
―やるなら徹底的にやれと。
市川:はい、徹底的にやったほうがいいんじゃないかと微力ながらアドバイスをしました。
―たしかに、ほかの街だとしっくりこないかもしれないですけど、これは褒め言葉として『殺人都市川崎』という文字面の面白さと、しっくりくる感じ。「しっくりくる」と言うと語弊があるかもしれませんが(笑)
市川:ひどいな(笑)
―インパクトを出すという意味では横浜でもなく相模原でもなく。
市川:これは大事な話で。高橋さんが川崎をディスり始めたから「おい!」って思いましたけど、浦賀さんは川崎市在住の方だったので。自らの言葉で語っている部分もエクスキューズになっている。
―千葉県民が埼玉県民をディスるとむかつきますけど、埼玉県民が自身で言う分には面白いですからね。どんな感じでディスっているんですか?
市川:えーと、ここですね。「川崎はハロウィンが盛んだ。地獄みたいに治安が悪いから、自虐的に化け物の格好をしたがるんだろう」とか。
―チネチッタのね。
市川:チネチッタも出てきますよ。主人公が赤星っていう少年で、あることをきっかけに殺人鬼に追われて、それから連続殺人事件が始まって、謎を解き明かしながら……というミステリーなんです。主人公が川崎に住んでいて、思い人の愛ちゃんって子が武蔵小杉に引っ越しているんですよ。
―……あそこも川崎市ですよね?今はタワマンがすごいですけど。
市川:この(小説の)世界の中では、武蔵小杉に引っ越したら「あがり」なんですね。
―川崎はたまに「南北格差」と言われますからね。武蔵小杉はおしゃれな街の扱いなんですね。
市川:「愛は中学卒業と同時に川崎を出て、武蔵小杉に引っ越してしまった」
―「川崎」を出てという扱いなんですね、武蔵小杉に行くのは(笑)
市川:「出世した者、成功した者は、皆、川崎を出て行く」っていうくだりがあったりとか。
―武蔵小杉は川崎市だけど川崎じゃないんですね。
市川:ないです、実際。武蔵小杉はこの(小説の)中では仰ぎ見る存在。
―実際問題、川崎に住んでいる人の中でもそういう位置づけは「まあ、わかる」と。
市川:「川崎のような底辺に住む男は所詮、同じ川崎の女と付き合うしかないのだ」とかね。
―たしかにこれ、(作者が)川崎市在住の人じゃなかったら怒られますよ(笑)
市川:そうそう。ディテールにも富んでいて、さっき言ってたチネチッタとかラゾーナとか実在の場所が出てきたりするんで、川崎市在住、在勤の人は絶対に楽しめることうけあいです。
―川崎って磯部涼さんの『ルポ 川崎』という本が出たり、ご当地として取り上げられつつあるなという感じはしますけど。
市川:編集者からして「ご当地もの」ってどうなんですか?
―増えましたよね、特に小説で。やっぱり、フックとして舞台がどこでっていうのは(重要)。「お仕事モノ」の職業と同じで、ちょっと変わったところを取り上げてますよというのは地元の書店で売れますし。東京(のような大都市ではなく)あえて街単位で面白さを見出す文化というか。ニッチとまでは言わないですけど。それこそ『翔んで埼玉』じゃないですけど、わざと楽しむ文化。昔だったらサブカルチャーだったものが一般的に消費されるようになっている流れがありますね。だから、増えているし、その理由も必然性もあるなと思います。
市川:「ご当地モノ」が増える一方で、これくらい振り切ってもらえるとすごいなと。
―タイトルとか、実在の場所が出たりとか。実際に住んでいる人から「わかるわかる」となることが大事。片手間で一度行ったことのあるだけの街を書いてもうまくいかないと思います。言ってしまえば、たとえば京都の本はノンフィクションでもフィクションでもいっぱいあると思うんです。そこで売れる本とそうじゃない本をわけるのは、ディテールをどこまで掴んでいるか。街のことをどこまでわかっているかは読者も見ている。
市川:これが1位で『ペスト』が2位だったのは壮観でしたね。
―その並びでランキング棚に並ぶんですよね。
市川:どっちも「ロックダウン系」ではあるんですけど。
―たしかに。
市川:とてもオススメのタイトルなのでぜひ読んでいただけたらと思います。
―ギョッとするというか、どんなものなのか気にはなりますよね。表紙も含めて。「『殺人都市川崎』が面白い」と言いたくなるような。
市川:口コミでも言いたくなるようなタイトルなのでよろしくお願いいたします。僕は春樹事務所の人ではないですけど(笑)
市川:そんなこんなで「ぼんくRADIO」をお送りしてきました。夏の文庫フェアのノベルティ問題は本気で考えたい。1年くらい続いたら「ぼんくRADIOストラップ」とか(作るのは)どうですか?
―前は「ぼんくRADIOTシャツ」作ろうと言ってましたが。
市川:そこは譲歩しました(笑)ストラップのほうが(安い)。どこにつけるんだって話ですけどね。
―どこにつけるかでその人なりの個性を発揮してほしいですね。
市川:それこそAppleに頼んで「右上に穴を開けてください」と。
―右上に、iPhoneを傷つけずにうまく穴を開ける業者とか出てきてほしいですよね。ストラップをつけたいあなたのために!
市川:そんな感じでございました。ありがとうございました。
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