akane
2018/12/27
akane
2018/12/27
市川:はい、こんにちは。ぼんくら書店員市川の「ぼんくRADIO」のお時間でございます。
――どうもよろしくお願いします。
市川:本日は!……え~、何を話すんでしょうか(笑)
――カルチャートークをやりつつ、椰月美智子さんをゲストに迎えつつ、とやってきましたけど、今日はですね……市川さんの回です。
市川:僕の回ですか?
――この「ぼんくRADIO」において、パーソナリティーの市川さんとは何者なのかと。「謎の書店員」という肩書ですけど、「あまりにも謎すぎる」という声を多方面からいただきましたので、今回は市川さんの謎に迫っていこうかなと思っております。
市川:承知しました!(笑)
――市川さんは川崎にある某大手チェーンの書店で文庫・新書を担当しているということです。ちなみに、私が担当しているわけじゃないですが光文社新書『世界一美味しい煮卵の作り方』(※)がきっかけで、このラジオを始めるに至ったと。
市川:煮卵が紡いだ縁ですね。
※『世界一美味しい煮卵の作り方』……2017年2月に刊行され、30万部近く売れた光文社新書のベストセラー。市川さんの書店では、仕掛けにより日本トップクラスの売り上げを誇った。ありがとうございます。
――市川さんは「カリスマ」かつ「ぼんくら」というアンビバレントですが、書店員になるに至った経緯、どういうお仕事をしているのかに迫っていければと。
市川:よろしくお願いします。
――まず、これまでの経歴なんですけど。市川さんは某大手チェーンで働くまで何をしていたんですか?
市川:えー、ぶらぶらしてました(笑)
――それだと本当に、ただぶらぶらしていた人になっちゃいます……。何かバイトとかはしていたんですか?
市川:アルバイトはただ「家が近かった」という理由で、もちろん本が好きだったというのはあるんですけど、古本屋さんで働いてました。ただ、その古本屋が数年でつぶれてしまいまして。さらに、某有名古本屋さんでもその後半年くらい(バイトしてた)かな。
――某有名店を半年で辞められた理由は?
市川:……諸事情により(笑)
――なるほど、色々あったんですね(笑)
市川:くぁwせdrftgy(※)……。まあいいか(笑)
※くぁwせdrftgy……文字に起こすことが困難な、言葉にならない悲鳴。ふじこ。声優の東山奈央の発音が完璧ですごい。
――そうして2つお店をはさみ、今働いている大手チェーンに移られたと。
市川:移ったというか、アルバイトとして入った。これも単純に「家が近いから」(※)という理由で。
※「家が近いから」……本日2回目。湘北を選ぶ流川楓か。
――そんなこんなでこの大手チェーンに入って文庫・新書の担当を。ちょっと小耳にはさんだのですけど、最初はレジをやっていたとか。
市川:そうですね。うちの店に関しては、アルバイトはまずレジから。レジ担当として店に入りました。ただ、どうしても僕は棚担当(※)、文庫がやりたかったので、レジの仕事が終わった後に連日、店長と副店長に「文庫担当がやりたい」と。
※棚担当……書店において「文庫」「ビジネス書」「理工学書」など、ある一定の書棚における発注やレイアウトなどを自分の役割とすること(書店によって多少差異はあります)。
――直談判をしたんですか。
市川:はい。直談判をする日々を送りまして。「そんな奴いない」っていうことで、熱意を買っていただきまして、1カ月ほどで文庫と新書の担当になって、現在に至る感じです。
――なるほど。なかなかすごい直談判ですね。
市川:完全に本宮ひろ志(※)の悪影響ですね(笑)
※本宮ひろ志……『サラリーマン金太郎』『俺の空』などが代表作の漫画家。漢気あふれる硬派かつアツい作風で知られる。
――まずはゴリゴリ押してみろと。
市川:「俺は漢だ!どん!」みたいな。
――棚の担当になるわけですが、そこで驚いたことや、「え、こんな感じなのか!」となったことは?
市川:まず、マニュアルがない。某有名古本屋さんで働いていた時は、結構な(量の)マニュアルがあった。でも本屋さんって、他のお店はわからないですけど、うちに関しては一切マニュアルがないんですよね。全部実地で「これはどうしたらいいんですか?あれは?」って聞いていく。
――じゃあ結構、色んな人に聞いたり、自分で考えたり。
市川:そうですね。自分でまず考えるというのが多かったですね。もちろん基本的な本の組み方は勉強するんですけど、ここにこの本を置いた方がいいのか、それともあっちの商品を……っていうのは自分で色々と実践して学んでいくというか。
――ちょっと手が空いた時には、お客さんの様子を見たりして。
市川:「すごい売りたい!」っていう本があった時には、仕事が終わった後に30分くらい、柱の陰からそこの売り場を眺めたりして。お客さんがどういう風に手を取るのかなと。今もしてます。
――「この人、何を見ているんだろう?」という人がいたら、それは市川さん。
市川:それはもうお客さんを見ている。あなたを見てますよ~(笑)
――変質者ではなく(笑)
市川:大丈夫です。手元を見ています。
――ちなみに、試行錯誤をする中で他の書店さんを参考にしたりはしたんですか?
市川:文庫担当になった時に、他のベテラン担当者に言われたのが「文庫担当になったら、POP(※)を描けなきゃダメだよ」と。
※POP……書店員といえばこれをイメージする人も多い。実際は通常業務で忙しく、なんとか空いた時間や、持ち帰りでやっている人もちらほら。
――ほう。書店といえばPOP、とイメージする方も多いと思います。
市川:そうですよね。それで「POPってどうやって描くんだろう」って思った時に、●隣堂(※)のUさんという方がPOPの描き方の本を出されていた。それを読んで「POPってこうやって描けばいいんだ」と。実際に●隣堂さんのお店に行ってみて、こんなレイアウトで展開しているんだとか。それは本当にすごいなと思いました。
※●隣堂……神奈川といえば。
――そういうの(他店)を見て、真似できるところは真似しようと。ちなみに、そこで学んだ「POP術」は今も活かされているんですか?
市川:まず、一番目立つキャッチの部分にタイトルは書かない。それは自分の中で(ルールとして)ありますね。
――そうなんですか?
市川:後輩とかにもよく言うんですけど、東野圭吾(※)さんのPOPを作るなら「東野圭吾最新刊!」って大きく書くのが一番良いよって。なぜなら東野圭吾さんの本を買う方は、東野圭吾さんの本を(最初から)求めているから。だから「東野圭吾」って書くのが一番効果的だと思うんですね。でも例えばそうじゃない、自分が売りたいけどそんなに知名度がない本(のPOP)にタイトルや著者名を書いたとしても、当然……
※東野圭吾……ガリレオシリーズ、新参者シリーズなどで注釈不要の国民的人気作家。新刊が出ると文字通り飛ぶように売れる。
――「誰?」ってなっちゃう。
市川:なので、その本を読んで自分の中でこの部分を推していきたい、こういう風に謳ったら興味を惹くんじゃないかっていうフレーズを考えて、一番大きく書くとか。それはすごい勉強になりました。
――そうやって色んな人のPOPを見つつ、自分でも手がけていって。最初に自身が仕掛けて「これは当たったな」というのは?
市川:え~、光文社新書の『わかったつもり』という本がありまして。棚前(商品棚の前)で何気なく展開していたんですけど、他の既刊タイトルと比べて、思ったより動きが良くて。データで客層なんかを見ても幅広い人に買ってもらっている。持論なんですけど、例えば1日に10人のお客さんがその場所に着くとして、(そこで)1冊売れているなら、100人いる所で売れば10冊売れますよね。だから、この本ってもしかして前の方に置いたら良いんじゃないかと。でも担当になったばっかりだったので、既刊を一番良い場所に100冊、200冊置くというのが本当に良いのだろうか?という逡巡はあったんですけど。
――リスクになるかも。
市川:でも、置いてみたら結果的にすごく売れた。多分、僕が仕掛けたときは2~3万部くらいだったんですけど、今ってどれくらい売れてるんですか?
――10万部超えてるか超えてないか……。正確なところはわかりませんが、確実に5万部以上は売れているかと。今も売れ続けている優良商品です。
市川:そこで光文社さんから、POPを使ってもいいかと連絡を頂いたりして、段々と色んな店舗へ拡大していくのを実際に経験して「仕掛けって本当にこうやって動くんだな」って。話が戻っちゃうんですけど、●隣堂のUさんが仕掛けられた誉田哲也さんの『ストロベリーナイト』(※)とか。だから本屋になって驚いたのは、意外と書店員ってすごいことやってるんだな、みたいな。
※『ストロベリーナイト』……小説家・誉田哲也の出世作。姫川玲子シリーズの第1作。竹内結子主演でテレビドラマ・映画化もされている。
――もちろん作家さんの力、作品の力もあるとはいえ、売れる「きっかけ」作りというか。書店のPOPだったり仕掛け販売で動くということが結構あるんだと。
市川:それは驚きましたね。だって、家電屋さんでそういうことってないじゃないですか。
――このお店のおかげでiPhoneよりもこっちのスマホが売れるようになりました、とか?
市川:(家電屋さんで)POPを描いたところで……わからないけど、洗濯機がそんなに売れるとも思えないし。
――「このドライヤーはすごい!」とか。
市川:それ(家電屋さん)もすごいとは思うんですけど。でも、例えばiPhoneに「この形よりもこういうデザインにした方がカッコよくないですか?」って意見まで言える業界ってないじゃないですか。
――売る側の立場で(提案をする)。
市川:それが本屋はできるっていうことがビックリしました。
――リスナー、読者の皆さんがふと手に取る本、「これ売れてるな」という本、実は書店発のヒットかもしれない。というかほとんどそうだったりしますよね、今は。
市川:ね~。
――それだけ書店が仕掛けることでヒットができることが驚きだったと。
【後編へ続く】
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