akane
2018/10/25
akane
2018/10/25
市川:はいこんにちは、ぼんくら書店員のぼんくRADIOです。
いつもは護国寺駅徒歩1分にある光文社の企画室で収録しているんですけど、今回はなんと……小田原まで来ています!
※企画室……企画室とは名ばかりの、ただの会議室。椅子が汚い。
――なんと小田原まで。
市川:なんでだかわかりますか?
――(いや、わかっているんですけど……)なんででしょう?
市川:特別ゲストをお招きしています!(ドヤッ)
ご紹介いたします。小説家の椰月美智子さんです!
椰月さん:こんにちは。椰月美智子です。
――椰月さんがこの度、光文社から新刊を出されたということで、特別ゲストでこのラジオに出てもらえないかとお願いしたところ、ご快諾いただきまして。
市川:ありがとうございます。
――まずですね、椰月さんの経歴の方を簡単にご紹介させていただきます。
――そして今回ですね、この9月に光文社より『緑のなかで』を刊行されました。それでは椰月さんの方から『緑のなかで』の簡単なご説明をお願いできればと思います。
椰月さん この本の後ろの方に収録されている「おれたちの架け橋」という作品があるんですけど。ベネッセさんの進研ゼミってありますよね?
――僕も入ってました。
市川 赤ペン先生にお手紙書いて、戻ってくるのすごい嬉しくなかったですか?
※赤ペン先生……ベネッセコーポレーションの通信教育教材、「進研ゼミ」における、添削指導員のこと。「赤ペン先生」は登録商標。的確な指導力と丁寧な観察力で、お子さまの学力とやる気を伸ばします。
椰月さん 私、やってなかったんですよ!(笑) すいません(笑)
市川 ふろくの中に色々ありますよね。
――ゲームで掛け算をできるとか。家におもちゃがなかったので、あれで勉強している友だちがすごいうらやましかった。
市川 後半は惰性になってきておもちゃしか触らなかった。脱線してすみません(笑)
椰月さん ベネッセさんから生徒へ、問題集と一緒に小冊子が届くんですけど、それの高校3年生用の冊子に載せる連載小説を(書いてほしい)、という話が光文社の担当者へあった際に、私の名前を挙げてくださって。そこから連載が始まりました。
それで書き上げたんですけど(原稿用紙)150枚くらいだったので、一冊の本にするにはちょっと足りないなと。そこで「おれたちの架け橋」の、高校3年生の主人公たちのその後を描いていこうと、小説宝石で連載をしたのがこの『緑のなかで』です。
※小説宝石……光文社が刊行している文芸誌。
――補足しますと、高校生時代の「おれたちの架け橋」をベネッセさんで先に書かれていて、それが『緑のなかで』という本の後ろに収録されています。そして、その後日譚、大学生になってからの話が本編という形で入っています。
春夏秋冬の季節ごとに話が進んでいくのですが、簡単にいくつかご質問させてください。
まず、舞台は北海道ということで「北の大地」と表現されていますね。北海道が良い場所だな、羨ましいなという印象を抱きました。なぜここを舞台にされたんですか?
椰月さん まず、北海道という地名を出さなかったのは、「おれたちの架け橋」で具体的な大学名を出すのもどうかなと思ったんですね。高校3年生たちにプレッシャー(がかかる)というか。北海道大学が想定している舞台なんですけど、「H大学」として。誰もが北海道だとはわかるんですけど、具体名は出さないで書くことにしました。
市川 実際、椰月さんの大学生活ってどんな感じだったんですか?
椰月さん 私は短大だったんですけど、え~と。別に何にも。ただ生きてたってだけ(笑)
なんでしょう、うかうかしていましたね。彼氏と遊んでばっかり。
――本書の主人公は大学で寮生活をしていますけど、すごく魅力的に描かれていますよね。自分は年も近いので単純に「寮生活がものすごく羨ましい」と思いながら読んでいたのですが……。
市川 でも高橋さんは絶対リア充な感じですよね。
――いやいやいやいや。
市川 こんなキャンパスライフを送ってそう。
――ここまでは流石に……。ちなみに寮の取材をされて、どういった印象でしたか?
椰月さん 私は本当に勉強してこなかった人間なので……謙遜とかではなく本気で(笑)なので、進研ゼミをやっている学生さんたちも、それだけで素晴らしい!
だから「私が書けるのか? 色々難しい」と思いながら書いて、そのまま北海道大学の取材に行ったんですけど、私の学生生活とは全然違くて。素晴らしい、本当に素晴らしい若者たち! まじめで誠実で……そんなに話してはいないんですけど、見るからにそういう佇まいで。
そして恵迪寮(けいてきりょう)という有名な寮へ取材に行かせてもらって、テレビで見たことはあったんですけど本当に異質な感じ。活き活きと生命力にあふれていて感動しましたね。とても良い取材でした。
※恵迪寮……北海道大学の寄宿舎の一つであり、日本三大自治寮の一つ。札幌キャンパス構内にある。
市川 僕がちょっと気になったのは、進研ゼミで書かれた「おれたちの架け橋」の方を、(本の)最後にもっていったのはなぜですか?
椰月さん 私もすごい迷ったんです。順番としては「おれたちの架け橋」が高校生で『緑のなかで』が大学3年生なので、(「おれたちの架け橋」が)先にくるんですけど。
『緑のなかで』である事件が起こるんですけど、その人がどんな高校生活を送っていたのかを後ろにもってきたほうが、読者がグッとくるのではないかと。
市川 グッときました。「椰月さんだな!」と思いました。これが後ろに来るのが。
――市川さんは椰月さんの大ファンということで、作品に貼られた付せんの数がすごいのですが、ここからは椰月さんの魅力を語ってもらいます。脱線しまくりで構いませんので、『緑のなかで』を含め、椰月作品を読んだことのない方のために、いかに面白いのかをお話いただければと。
市川 ここ(小田原)に来る前に高橋さんと二人でアクティーに乗ってる時、高橋さんが「『緑のなかで』って続編はいつなんですかね?」って話があって。そこで僕はひとしきり説教をしたのですけれど。
※アクティー……東海道線(東京~熱海間)を走る電車。快速と名がついているが、実際、快速運転するのは藤沢~小田原間のみ。他の駅は普通列車と同じく停車する。
椰月さん (笑)
市川 これが作品そのものですよと。
――魅力的な登場人物が出てきて、恋の予感だったり人生の転機だったり、大学生なのでいろんな出来事があって。喧嘩だったり別れだったり。
それで「あそこで出てきたあのキャラクター、どうなってるの?どうなるの?」ということが、色んなキャラクターに対して言えるわけですよね。
僕は間島くんというキャラクターとか、沖縄出身の渡嘉敷さんとか、女の子(主人公の幼馴染の真帆)がすごい好きなんですけど、あの子たちはどうなるんだろうな~ということがすごく気になっちゃって。それで「続きはどうなるんですか?」という話を。
市川 椰月さんって「。」で終わっている作品がないんですよ。いっつも「、」で終わっている気がして。
椰月さん なんて素敵な表現。
市川 それこそ『その青の、その先の、』とかはタイトルそのまま「、」ですけど。例えば今回は大学生の啓太を中心とする話ですけど、リアルに啓太という人が存在して、そこにフォーカスを当てていって、それが物語として続いているから、別に「。」になる必要がない。常に読点で終わっているのは、全部の作品に通じている。
椰月さん ありがとうございます。私も続編を書く気はなくて。すごい(続きが)気になるんですけどね。特に間島とかは大好きなので。彼なりに何かをやっているんだろう、私の知らないところで。
――あくまで一瞬を切り取っている。
椰月さん う~ん。その世界は多分続いていると思うので。彼らの世界は。そこに私は介入しなくてもいいかなって感じ。
市川 椰月さんの作品って、登場人物に対する距離感が一律ですよね。神の視座というか、そこまで寄り添わないけど、突き放しもしない。絶妙な距離感で書かれている。
椰月さん そうですか。
株式会社光文社Copyright (C) Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved.