akane
2019/01/03
akane
2019/01/03
――えーとですね、今いる光文社の収録室に大量のオビを持ってきて頂いているんですけど、どれも市川さんがイラスト入りで描かれているものです。色んな作品(のオビ)を描いていますが、はじめて描いたのはどれですか?
市川:これも光文社さんで、『99.9%は仮説』という、竹内薫さんが書かれた新書です。
――これは40万部超えのベストセラーですね。
市川:『わかったつもり』の仕掛けが成功したということで、柿内さん……柿内さんと言ってもあれですけど。
――柿内さんという、光文社新書におられた有名な、カリスマ編集者みたいな人がいます。
市川:柿内さんから「オビ描いてみない?」というご依頼を受けまして。「是非描かせてください」と。それが初めて描いたオビになります。
――でも相当、好き放題に描かれていますよね?
市川:そうですね。「できました」とお渡しした時に「えっ、表4(※)まで描くんだ」って(笑)
『99.9%は仮説』というのは、定説とされていることって本当は科学的に仮説だったりするんだよ、というお話なんですけど。表3と表4に僕が勝手に作った「仮説くん」「定説くん」というキャラクターのプロフィールが載ってたり。あの~、メチャクチャやってます(笑)
(描き方が)わからなかったんでしょうね、多分(笑)
※表4……表1~表4とは本の表紙の呼び方。表1は一般的に表紙と言われる部分のこと。表2は表1を開いた裏側、表3は表4を開いた裏側。表4は一般的に背表紙と言われる部分のこと。
――面白い仕上がりになってますね。
市川:背表紙の、葉っぱが頭に乗っかっている……男の子?
――性別不詳ですが、「アランちゃん」って陰で呼ばれている光文社新書のキャラクターですね。
市川:頭の葉っぱを枯れ葉に変えて自分でキャラクターを描いて「これでお願いします」って言ったら、「これは有名なデザイナーが作っているからダメです」って言われて。そこだけ普通のままなんですけど。
――そこまで手を加えるこだわりようで。それがきっかけで、新書だけじゃなくて文庫でもオビを描いていると。いくつかあるので、紹介して頂いていいですか。
市川:双葉文庫で、永井するみさんの『隣人』。これはPOPも描いてるんですけど。やっぱり表4のところに「こんな隣人は嫌だ」という1コマ漫画が。
――鉄拳(※)みたいな。
※鉄拳……スケッチブックを持ちながら「こんな●●はいやだ」というイラストネタを披露するお笑い芸人。今ではパラパラ漫画の方が有名。
市川:「こんな『隣人』は嫌だ!引っ越しの挨拶にマリモを持ってくる」。本には全然関係ないんですけど。
――小ネタを入れるのが基本的に好きなんですね。
市川:小ネタ多いですね。『化学探偵ミスターキュリー』。今50万部くらい売れてるんですけど、1巻の、まだ続くかどうかわからなかった時(※)に仕掛けてヒットして。2巻の出るタイミングで「オビコメント書いてください」ってオファーを頂いたので、これは表2なんですけど「こんな『化学探偵』は嫌だ!」。「『私が考案したリトマス紙占いはあなたが犯人だと言っています。もう逃げられませんよ』。化学を使ったオカルトだ。」、っていう。
※続くかどうかわからなかった時……最近では1巻の売れ行きを見てから2巻以降を刊行するか判断するレーベルも多い。
――じわじわ嫌な奴ですね。このへんは画像を載せるので。
市川:これがどう本の売上に繋がるんだって言われたら、もう何も言えないんですけど、そういうようなオビを作らせて頂いてます。
市川:え~っと、自分の中で、角川春樹事務所さんのハルキ文庫『覇道の槍』という天野純希さんの書かれた歴史小説があるんですけど。これ、表1に「司馬遼太郎の『梟の城』以来の傑作だ!」って、角川春樹社長の(似顔絵)。
――おお、似顔絵が。
市川:私が春樹社長と是非絡みたいなと思って、編集さんに「どうにか似顔絵を描かせてください」と言って、オフィシャルに似顔絵を描かせてもらっています。これは新聞広告にも使われた。
――なかなかないですよね、春樹社長と絡むなんて。
市川:これで僕が書店員になった夢は半分叶っています。
――(笑)どのオビにもイラストが入っているのが特徴的ですね。
市川:大体は人を描いている。昔、某版元の有名敏腕編集者さんと話をした時に「人間って人間の顔かどうかをまず判断する。なので、自分は表紙に人の顔またはそのイラストを使うことが多いんだ」という話を聞いて、本当にそうだなと思って。穴が逆三角形にあるだけで人間は「あれ、顔かな?」と思ったりする。心霊写真とかも、明らかにシミだろっていうのも「人の顔だ!」となったりするじゃないですか。
――昔は天井の木目が……とか言いましたし。
市川:そうそう。顔を見ると人って一瞬止まるという話を聞いて。なるほどと思って、人の顔をたくさん描くように。
――それがオビだけじゃなくてPOPにも。
市川:赤川次郎さんの似顔絵を描いたり、中島らもさんの似顔絵を描いたりしています。
――ちなみにオビとかPOP以外に、こういうもの作ったことある、というのは?
市川:双葉文庫の横浜ベイスターズのノンフィクションなんですけど、『4522敗の記憶』という、村瀬秀信さんの本。これ、POPで「ハマの番長」(※)三浦大輔さんをワンポイントで大きくイラストを描いているんですけど。
どうしてもこのPOPを使ってほしいなと思って。自分が書店員だからわかるんですけど、1日お休みをもらった後(出勤すると)、自分の資料置き場がものすごいFAX、拡材の山になっていて。
※ハマの番長……三浦大輔選手の愛称。コントロールと変化球(特にカーブ、カットボール)に優れた技巧派投手として知られるが、全盛期はストレートも150km近く出ていた。
――色んな出版社さんがうちのPOPを送るので使ってください、と。
市川:そう。で、何をするかと言うと、大事な書類とそうでないものを選別する作業をして、拡材封筒とかは大体捨てちゃうんですよね。自分がそういう経験をしてきて(拡材が使われにくいことは)わかっているので、どうにか目を惹きたいなと思って。
――捨ててほしくないなと。
市川:そうです。それで、これはPOPだけじゃなくて拡材封筒も作っていて。POPは三浦大輔さんなんですけど、拡材封筒はスーパーカートリオ(※)の似顔絵を描いて「拡材使ってくださ~い」って吹き出しを。スーパーカートリオってわかります?
※スーパーカートリオ……1985年シーズンに日本プロ野球の横浜大洋ホエールズでトリオを組んだ高木豊、加藤博一、屋鋪要の俊足打者3人組。
――大洋ホエールズ時代の。
市川:加藤博一、高木豊……あ、あと一人誰だ!?
――屋敷。
市川:あ、屋敷要。そうそうそう。それを描いて。
――それはホエールズ時代を知っている人には懐かしい。
市川:だって、拡材封筒にいきなり加藤博一が描いてあったらビックリするじゃないですか?「なんで加藤博一いんの?」って話に。
――思わず開いてみたら、さらにハマの番長がいると。
市川:じゃあしょうがない、このPOP使ってやるか、となると思って。というような感じで拡材封筒もいくつか作ったりしています。
――あの手この手でやっているという感じなんですね。すごいな~。ちなみに、最近は具体的にどういうお仕事をやられているんですか?
市川:最近は……文藝春秋さんのオール讀物の「本屋が選ぶ時代小説大賞」の選考委員を今年から務めさせていただきました。自分がまさか選考委員に……お話が来ると思わず。過去の記事を見たら、大先輩ばっかりで。選考委員は5人なんですけど、みんな他の本屋さんですごい有名な。
――レジェンドが集まっていると。
市川:そうなんです。で、写真を見たら、(選考の)会をするんですけど、みんな男性はジャケットを着ているんですよ。「ヤバい!ジャケット着てる!」と思って。僕が持っているジャケットは黒の上下で、15年くらい前に買ったズタボロのやつ(笑)これはヤバいと思って、お引き受けした時点ですぐにAOKIへ行って、スーツを選ぶところから始まりました(笑)
――選考委員たるもの。
市川:ええ、まずは形から入るタイプなんで。紺の爽やかなジャケットを。12,900円かな?すごくいいジャケットでした。それを買って、選考に挑むという。最近やった仕事と関係ないな(笑)
――書店員さんって、先ほどの「書店からヒットが生まれる」という話と通じますけど、オビだったりPOPだったり選考委員だったり、あの手この手というか色んな方向で本に絡んでいける印象ではありますよね。
市川:2018年11月22日発売のオール讀物にて載っておりますので。「ああ、このジャケットで!」と思っていただけたら大変嬉しいです。
――あのAOKIのジャケットはこれかと。
市川:「買ってみようかな?」なんて(笑)
――そこだけでも見てくださいと。
市川:ぜひAOKIの方へ行ってみてください(笑)
――というわけで最近のお仕事事情を聞いてきたのですが、ここからちょっとまとめ的なお話を聞きたくてですね。たとえば自分の周りにも「最近書店員になった」という方がいたりして。
ただやっぱり、書店員って楽しく仕掛けられる部分もある一方で、荷物が重かったりスケジュール的にハードだったり、すべての仕事がそうなんですけど、書店員も辛いことが結構あるという話なんかも聞いていて。市川さんだったらそういう人にどうアドバイスをしますか? 例えば市川さんの所にも、アルバイトで入ってきたりする人もいると思うんですけど。
市川:あー。まずですね、良いところは、デスクワークもあるし肉体労働もあるので、程良く体と脳を動かしながら、肉と野菜じゃないですけどバランスのある生活を送れるところがメリットですよ。
あとは、書店員って「文化」を取り扱っているっていうのがあるじゃないですか。だから、どうしても自分で「これはすごい良い本だな」って思う作品を前の方に並べちゃったり、「嫌な作品だな」と思うものを後ろに引っ込めちゃったりとかする人もいると思う。
僕はそうじゃなくて、自分にとって良い作品と悪い作品、例えば若い人にとって良い作品や悪い作品、お年寄りからして良い作品と悪い作品……とあるので、自分が「これは面白い」と思った本というよりは「これは面白い!」って思ってくれるお客さんに届くような売り場作りを心がけましょう、心がけたいなといつも思っています。「売る」ってことを忘れちゃいけないなって。
――ユーモアのあるオビやPOPなんかも見てきましたけど、大前提に「これをどうやって売るのか、どうやって届けるのか」というのがあった上で描いている。棚を作るだったりも。
市川:だからこれも大分ふざけているなと思われるかもしれないですけど、「お」って目を惹く、違和感ってすごい大事だなと思って……いる、という言い訳をしておきます(笑)
――書店員たるもの、売るプロであれと。
市川:売り場作りをするのってお店の中でも競争だと思うんですよね。自分が「この本を目立つ場所に置きたい」と思うのと一緒で、他の人も別の本を置きたかったりするので。
それはもう、売り場で例えば赤ちゃんがゲロ吐いちゃったりしたら掃除したり、「更衣室の蛍光灯が切れた」とか言われたら率先して替えたり……。みんなが嫌がる仕事をたくさんやって、自分の売り場内でのポジションを築けと。
――みんなそれぞれ「この本を売ったら売れるでしょ」と思っていることがあるはずで。そこを勝ち抜いて自分のプランを通す。
市川:そう。信頼関係を築いて、自分が「これをしたい!」って思った時に1人でも多くのスタッフが味方になってくれるような仕事をしていきたいなと思ってます。アドバイスというのはおこがましいので。
――まずは小さなことからコツコツと。当たり前だけど、そうですよね。王道。
というわけで今回は「市川さんって何者なの?」という疑問にお答えするために経歴を聞いてきました。作ってきたPOPだったり売ってきた作品だったり、もっともっとあると思うので、また色んなタイミングで聞いていけたらと思います。
市川:ちょっと「POP論」みたいな感じで語りたいですよね。
――そうですね。書店員さんの話ってなかなか意外と聞く機会がなかったりするので。また色んな機会で聞いていけたらと思います。今後ともぜひぜひよろしくお願いします。
市川:よろしくお願いします。
――というわけで、今回もぼんくRADIOをお送りしてきました。ありがとうございました。
市川:ありがとうございました~!
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