ryomiyagi
2020/06/17
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2020/06/17
■『幕末太陽傳』(映画 1957年)
製作:日活/監督:川島雄三/脚本:田中啓一、川島雄三、今村昌平/出演:フランキー堺、左幸子、南田洋子、石原裕次郎、小林旭 ほか
『居残り佐平次』『品川心中』といった古典落語を原案に、幕末の品川遊郭での人間模様を描いた群像劇だ。
日活の「製作再開三周年記念映画」と銘打たれているだけあり、当時の日活のスターが総出演したオールスター映画となっている。
通常のオールスター映画の場合、スターごとの見せ場を串刺し的に構成することが多いが、本作はそうではない。一つの場所に集めて一気に動かしているのだ。
しかも、川島雄三監督は冒頭の十分で、あらかたの役柄とキャラクターを巧みに説明してのけている。
曰くありげな遊び方をする佐平次(フランキー)、外国人襲撃を企てる長州の志士(石原、小林、二谷英明)、対立する二人の遊女・おそめ(左)とこはる(南田)、健気に働く下女のおひさ(芦川いづみ)……。
これらの人間模様がスピーディーな場面展開の中でリズミカルに生き生きと描写されていくものだから、観ている側としてはそれぞれのキャラクターが無理なく自然と入ってくるし、また、作品世界に楽しみながら没入することのできる仕掛けになっている。
圧巻だったのは、フランキー堺だ。
佐平次は遊郭で遊び倒しながらも金の持ち合わせは全くなく、自ら進んで遊郭で働くようになる。
そして、機転を利かせながら、巻き起こるトラブルを次々と解決していくのだ。
彼の止まらない口八丁手八丁の軽妙な芝居を見ていると、落語の世界がそのまま映像化されたような楽しさを感じることができる。
だが、それだけではない。
佐平次は薄暗い物置部屋で暮らしているのだが、そこで一人になると、どこか暗い、陰のある表情になるのだ。
実は佐平次は肺を病んでおり、決して長い命ではなかった。そんな佐平次の陽と陰の表情を、フランキーは巧みに演じ分けている。
明るく振る舞っているからこそ、どこか寂しい――、フランキーの芝居が漂わせる雰囲気は、遊郭という場所の漂わす刹那的(せつなてき)な儚(はかな)さを象徴しているようでもある。
そのため、劇中の人々が賑やかに喧騒を演じれば演じるほど、その底流にある物悲しさが浮かび上がってきて、祭りの後のような余韻をもたらすことになった。
【ソフト】
ハピネット(ブルーレイディスク、DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、DMM.com、U-NEXT、TSUTAYA、スカパー!オンデマンド、ビデオマーケット
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニメストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでいます。
●この記事は、6月11日に発売された『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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