『このBLがやばい! 2018』第1位! 江戸を舞台にした『百と卍』が傑作すぎる

るな 元書店員の書評ライター

『百と卍』祥伝社
紗久楽さわ/著

 

 

ずっと考えていた。
読んだコミックの感想を書くか、書くまいか。
でも書こうと思う。

 

『このBLがやばい! 2018』 を読んでから、第1位で気になり続けて買ってしまった『百と卍』(ももとまんじ)。
そう、BLである。

 

知らない方へ説明しよう。
BLとはBOYS LOVEの略で、主に男子と男子と、男子とか男子、そっちも男子、こっちも男子?あっちもだ!で繰り広げられる恋愛ものの読み物の総称である。

 

ただのSMだったり純愛だったり、成長物語あり青春もありの、どっからでもどうとでも風呂敷を広げることが出来る、ウルトラハイパーバッチコーイジャンルだ。

 

昔「腐っていた」私は、少女マンガよりこっちを読んで、切なくなってきゅんきゅんしていた。
当時はまだまだ社会的地位が低かったBL。BL=エロ=変態女子!みたいな風潮でマンガを買う勇気がなくて文庫しか買う勇気がなかったものだ。

 

今回のこれ、絵を見てしばし考える。
…江戸…なのか…?
隈取りしてる男子(恐らくこちらが攻め)と、可愛らしい月代の男子(受け)の表紙。
時代ものでBLとはこれいかに。しかし第1位!さすがBL界の諸先輩方は目も心も肥えていらっしゃる。

 

BLは男子向けのエロ作品と違って、ストーリーが最優先。男子エロは作画崩壊レベルの乳やお尻がスタンダードだが、BLでは作画崩壊した股間は受け入れられない。

 

むしろサイズ感は現実に忠実に再現されていて、実線でなく、トーンを削り取って存在をほのめかすくらいの、ふんわりニュービーズ仕様。

 

つまり、話が面白くないとダメで、適度に刺激的、でもあまりあからさまな表現は下衆だからノーーゥ!!なのだ。

 

思うに、BLはファンタジーだ。

 

BL好きがそれを読んでいる時、そこに現実は一切介入しない(私の場合)。

 

BL好きだからって現実世界の男子×男子にときめくわけではない。あくまで全て架空の物語。
しかしながら江戸時代BL。月代にふんどし姿の男子たちの絵面、想像しても、ガチガチのハードコアしか出てこないではないか。

 

…読んだ結果。こりゃ1位だわ。
なんでも著者は元々江戸漫画の雄だそうで、それ故に設定と背景、作画がとてつもなく安定している。「とりあえず江戸時代の雰囲気出しとけばよくね?」感がなく、妥協を許さない描き込みにまず目を奪われた。

 

ストーリーは、当時あった男色専門のお仕事である陰間茶屋に従事していたかわい子ちゃん(男子)がイケメンに拾われて少し経った頃から始まる。

 

男色は浮世絵で描かれることも多く、遊女と同じく身売りで就くことがほとんどだった。
この二人の背負う業と葛藤が切ない。互いに飲み込んだ言葉とその想いが絵だけで表現されていてグッとくる。男子同士?だからどうしたぁぁああぁ!!

 

通常の恋愛ものは、さぁいよいよいたすぞ!な部分やドロドロ修羅場は、はいカット!!で描かれはしない。
でも恋愛って、本当はそんなに綺麗じゃなくて、エゴと欲と嫉妬と執着やなんかと鯛やヒラメが舞い踊っているもの。カットされたところの方にこそ本心本音が詰まっていると思うんだ。

 

別れてすぐ立ち直ったりできないし、もう会わないと言われて、「はいそうですか」なんてすんなり思えない。だって、本気なんだもの。
自分のものにしたい、私だけを見て欲しい。奪いたいし抱かれたい。そういう感情と向き合って戦って、本当の意味で相手の幸せを願う境地に至る。

 

例えその笑顔の先に自分がいなくても、笑っていてほしい。朗らかに生きてほしい。
私はそのためだったらなんだってするし、なんでもできる。たった1回、あなたの笑顔がこちらをむけば全てが報われるんだ。
荒れ狂って号泣しても、そんな顔見せられたら、もうほんとに、もう!

 

同性を好きになるという行為は罪だと教えられてきたけれど、そんなのナンセンスだ。時代錯誤甚だしい。
彼らはただ1個の人間として、人間を好きだと叫ぶ。
恥も外聞も脱ぎ捨てて、背徳感、罪悪感、性別をも越えたその先にあるのは何か。
愛だろ、愛。愛しかないでしょ?
BL男子のサンキュータツオさんに是非感想を聞きたい。
ちょっと男子も読んでみて欲しい。

 

同じ恋愛コミックなら何故、わざわざ男子同士を読むのか。
時々無性に恋しくなる瞬間があるんだ。
それはさ、多分愛が足りないから。
綺麗事じゃない方の、愛が。

 

『百と卍』祥伝社
紗久楽さわ/著

この記事を書いた人

るな

-runa-

元書店員の書評ライター

関西圏在住。銀行員から塾講師、書店員を経て広報とウェブライター。得意なのは泣ける書籍紹介。三度の飯のうち二度までは本!

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