2020/08/14
高井浩章 経済記者
『ザリガニの鳴くところ』早川書房
ディーリア・オーエンズ/著 友廣純/翻訳
「2019年アメリカで一番売れた本」
「全米500万部突破」
そんなパワーワードが踊る帯には、強力な布陣で「とにかく、黙って、読め」と言わんばかりの推薦の言葉が並ぶ。
この上に私が贅言を重ねても意味がなさそうなので、個人的な体験を少々ご紹介する。
私が本書を購入したのは、文学YouTuberのベルさんのある動画がきっかけだった。
ベルさんの書評動画はどの本も読みたくなってしまうのだが、『ザリガニの鳴くところ』は「熱量」が明らかに違った。「2020年の上半期1位はこれで決まり」とまで言われては。善は急げとAmazonで発注し、翌々日には手元に届いた。
「週末に読もう」とリビングに積んでおいたら、なんと先に高校生の次女に読まれてしまった。目ざといな。一気読みした娘は、ベルさんと同じようなアツいまなざしで、「これ、もうね、すごい。女は全員、読むべき」と宣った。
こうして若い女性陣(と自分の娘を呼ぶのは変な気分だが)の猛プッシュをうけて、48歳のオジサンは本書に向かい合った。
はい、おっしゃる通りでございました。
舞台設定、人物造形、プロット、訳文、そして何より、大自然に寄り添って生きる「湿地の少女」の状況描写。何から何まで、素晴らしい。
読後の余韻のなか、親馬鹿ながら、「すべての女性が読むべき」というわが娘の感想がいかに的確だったか、感心した。
そして同時に思った。
いや、これは、「すべての男」にこそ、読まれるべきだ。
おそらく、多くの女性は、主人公カイアの孤独と試練、喜びに、すんなりと共感できるだろう。男性の方がシンクロするハードルは高いかもしれない。「わが事」のようには読み進められないかもしれない。
それでも私自身は、読んでいる最中は、この少女との一体感が味わえた。それはとても貴重な「体験」となった。
すべての女と、すべての男、LGBTの人々を含めて、できるだけ多くの人にこの素晴らしい作品を手に取ってほしい。
ああ、結局、私も陳腐な売り文句に帰着してしまった。
帯に推薦を寄せた人々の気持ちがよく分かる。こういう本には、こんな言葉しかないのだ。
「黙って、読め」。
『ザリガニの鳴くところ』早川書房
ディーリア・オーエンズ/著 友廣純/翻訳