2020/09/04
高井浩章 経済記者
『三体II 黒暗森林』早川書房
劉慈欣/著 大森望、立原透耶、上原かおり、泊功/翻訳
翻訳モノには、独特のマゾヒズム的な楽しみ方がある。
もう「新刊」は出ている。でも、読めない。ギリギリ行ける英語でも大作は躊躇する。
原書を読んだ人たちから「傑作」といった評が耳に入ってくる。ジリジリしながら、訳を待つ生殺しに耐える日々。
『三体』3部作にそんな思いを抱く方は多かろう。私もこれほど「まだか…まだか…」と待ち焦がれるのは『フロスト警部』シリーズ以来だ。
待った甲斐はあった。2作目にあたる『黒暗森林』はシリーズ最高との下馬評に違わぬ傑作だ。
1作目について私は当サイトで「一気読みのエンターテインメント性をそなえた第一級のSF」と評したうえで、読者を引き付けるのは「精緻さと強引さのバランス」と書いた。今回も同様に「ギリギリあり」の綱渡りで構築されるスリリングな世界で、荒唐無稽と紙一重の稀有壮大なストーリーが展開される。
ネタバレはご法度なのでこれ以上は踏み込まないが、「コン・ゲーム」系のミステリー好きなら「面壁計画」で描かれる裏の裏、そのまた裏をかくトリッキーな心理戦にハマること間違いなし。だましあいの相手は何光年という距離を隔てた地球外生命体で、スケールの大きさも文句なし。人類の中の対立、「人間vs人間」の近距離戦の妙味もたっぷりだ。
物語としての面白さだけでなく、全体を通す「別の星系で発展した知的生命体は共存共栄できるのか」というテーマの掘り下げも実に興味深い。
三部作の完結編『死神永生』は今作をさらに超えたスケールの「大きなSF」で、日本語版の刊行は2021年春ごろだという。
まだ半年以上、焦らされて待つ羽目になってしまった。待ちきれずに既刊2作を再読しようものなら、禁断症状が悪化するのは目に見えている。
1作目、2作目とも未読の方にご提案。ひとまず「積読」にしておいて、3部作がそろうまで待ってはどうだろうか。この壮大な作品を一気読みできれば、極上の読書体験になるだろう。
とても我慢できないというせっかちな方々、あるいは「
『三体II 黒暗森林』早川書房
劉慈欣/著 大森望、立原透耶、上原かおり、泊功/翻訳