2021/01/28
吉村博光 HONZレビュアー
『小さな出版社のつくり方』猿江商會
永江朗/著
近ごろ、「初心忘るべからず」という言葉が、寝る前にズーンと頭にのしかかってくるようになった。3月に会社を辞めて以来、ずっと私は「これまでと違うことをしたい」と思い続けてきた。例えば、会社勤めではなく会社経営。例えば、同じ業界内での転社ではなく転職。基本的には、自分にとって新しくて面白いことをしようと思っていた。
とにかく未知の世界というのは、ワクワクするものだ。だから、私は本も好きなのである。しかし知り合いにそれを話すと一定の理解を示すものの、これまで出版業界で築き上げてきた経験を捨てるのは「もったいない」といわれることが多かった。言いかえると、(今のところ)多くの人が私に期待しているのは、
そんなわけで「初心忘るべからず」の初心について考えるようになった。これから私がしようとしていることは、
あれは就職活動中、直接小さな出版社の営業部に、一冊の本を買いに行った時のことだ。残念ながら出版社名は忘れたが、場所も、小雨模様の天気も、2割引きで買えた嬉しさとともに鮮明に覚えている。マガジンハウスの創業者二人についての本だった。私は出版社でアルバイトをしていたので、現場の空気を思い浮かべながら面白く読んだ。
それは同時に「出版社を作ること」が、私の「将来の夢」になった瞬間でもあった。ここ数か月、眠れない夜にはそのことを考えるようになった。布団のなかで同じような本が出てないか探して買い求めたのが、本日紹介する『小さな出版社のつくり方』という本である。書店愛が詰まった本はたくさん出ているし、私もそれなりに読んできた。
でもなぜだろう、若き日にそんな夢を描いた割には、出版社愛の詰まった本を読んだ記憶が少ない。それはもしかしたら、出版取次で「出版社を作ること」の厳しい現実を目の当たりにして、興味を持つことすら蓋をしてきたからかもしれない。私ごときが、という思いだ。でもどうやら、その蓋には茶筒くらいの隙間が空いていたようだ。
会社を辞めて10ヶ月経ってからではあるが、こうしてその夢を思い出しているのだから。本書には「新規出版社の側からみた、出版社を作るということ」について、12の事例が紹介されている。これを読めば、タイトルにあるような「小さな出版社(悪い意味ではない)」を作るには、どうやら以前よりも環境が整ってきていることがわかる。
本書の刊行は2016年。そこには12とおりの夢があって、
ただネットで検索すれば、本書に掲載された出版社の現在の活動状況はわかる。創業か守成か。経営を軌道に乗せて永続させる難易度は、さらに高まっているのではないだろうか。創業時にビジネスモデルを決める際には、やはりある程度将来的な形を視野に入れておく必要があるということだろう。
マガジンハウスのように新しい文化の担い手になる出版社を作るこ
『小さな出版社のつくり方』猿江商會
永江朗/著