無人島から生還した十六人に現代を生きる私たちが学ぶべきこと『無人島に生きる十六人』

山本左近 元F1ドライバー さわらびグループ CEO/DEO

『無人島に生きる十六人』新潮文庫
須川邦彦/著

 

船乗りでもない、現代の文明生活のなかで生きる私たちが直面することはなさそうな、難破により小さな無人島での生活を余儀なくされた明治の日本人十六人の物語。
誰もが祖国日本に戻りたい、けれども戻る手立てはなく助けを待つだけ。そのような絶望的状況のなかで、万が一の可能性を信じた十六人が無事に帰還を果たす、という奇跡の実話です。

 

そこにあるのは、どんな状況であっても可能性を信じる力と、自分のことだけを考えず相手を思いやり調和を図る利他性と、ないものだらけのなかで今あるものを最大限に活用する知識と知恵。無人島生活を乗り切り帰還した彼らから学べることが、現代に生きる私たちにとっても非常に多くあります。
それは、ウミガメが逃げないようにひっくり返したり、海水から真水を作る方法といった無人島での生活手段ではなく、一つの目的意識を共有し、それぞれの定められた役割を全うし、そしてお互いに敬意を払い規律正しく生活することで、全員死亡してもおかしくない状況にもかかわらず奇跡的に全員が帰還することを可能にしたこと。

 

 

私は本書からリーダーシップとは何か――決断力と統率力、そしてほんの少しの隙間――を学びました。
ある時、決められたことを守れなかった船員がいましたが、その時も怒って禁止し処罰するのではなく、状況判断し許す。そして年長者の知恵と若者の力をうまく使いながら全体をまとめていく様子は圧巻でした。

 

漂流してすぐに決められた4か条の中で、
【1】島で手に入るもので暮らす
【2】出来ない相談は言わない
【3】規律正しい生活をする
【4】愉快な生活を心がける
【1】〜【3】は当たり前のことですが、【4】の「愉快な生活を心がける」ことがいかに大切か気づかせてくれます。

 

愉快になれるはずがないような状況のなかで、愉快に努めなければ、上の3つが苦しくて守れず、争いが起こり破綻してしまうでしょう。
現代においては、コンプライアンスという名の下の規則規律のなかで正しい生活を社会的に求められており、少しの隙間も許されないような潔癖な社会となっていると感じています。
無人島から比べたら、モノもあふれ、環境も豊かな現代生活ですが、彼らの無人島での愉快に生きることを心がけ、限られた環境のなかで知恵と創意工夫に溢れる生活を知ると、果たしてどちらがより人間的に豊かな生活なのでしょうか? と思わざるを得ません。

 

また超高齢社会を迎える今後の日本において、限られた環境のなかで知恵を出し合い、年長者と若者それぞれがお互いに敬意を払いながら、自らの役割を果たし、どのように幸せな共生社会を構築していくのか? その問いに一つの道筋を教えてくれたようでもありました。

 

超高齢社会という荒波を迎える日本において、非常に教訓の多い大冒険物語です。

 

『無人島に生きる十六人』新潮文庫
須川邦彦/著

この記事を書いた人

山本左近

-yamamoto-sakon-

元F1ドライバー さわらびグループ CEO/DEO

幼少期に見たセナの走りに心を奪われ、F1パイロットになると誓う。両親を土下座して説得。1994年よりレーシングキャリアをスタート。2002年に単身渡欧。世界中を転戦し、2006年当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、地域の医療福祉に邁進。2017年に学校法人を取得。医療・福祉・教育の3本柱となったさわらびグループのCEO/DEOに就任。「超"幸"齢社会をデザインする」をVisionに掲げ、世の中のイノベーションを探る「長寿のMIKATA」の編集長でもある。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。


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