世界王者・室伏広治の偉業の秘訣は「ゾーン」にあった!『ゾーンの入り方』

今泉愛子 ライター

『ゾーンの入り方』集英社新書
室伏 広治 /著

 

原稿を書いていて「もうムリ、書けない」と音を上げそうになることがある。書きたい文章のイメージはあるけれど、どうしても届かない。あまりに切羽詰まって泣きたくなるのだけど、そこで踏ん張ると、不思議な集中状態に陥ることがある。

 

そこは不思議な世界だ。雑音はすべてシャットアウトされていて、キーを叩いていると、脳が次第にフル回転し始める。果たして、これはゾーンなのか。ただの火事場の馬鹿力なのか。

 

著者の室伏広治さんは、ハンマー投げの選手としてオリンピックに4度出場し、04年のアテネオリンピックで金メダルを、12年のロンドンオリンピックで銅メダルを獲得した超一流アスリート。体格がものをいう投てき種目で、これまでメダルを獲得した日本選手は、室伏さんだけ。しかも2度、そのうちのひとつは金メダルということからも、いかにすごい選手かがわかる。

 

 

その室伏さんが偉業達成の秘訣を語る上で、大切なこと、一般人にも共有できることとして選んだのが『ゾーンの入り方』だ。ゾーンとは一体なんなのか。彼はそれを集中力が極限まで高まって、高いパフォーマンスを発揮できる状態だという。

 

本書では、室伏さんが実践している呼吸法も紹介されている。手のひらをヘソの下にあて、意識を集中させていく方法はとてもわかりやすいが、それで直ちにゾーンに入れるほど単純なものではないだろう。

 

彼の真骨頂は、一投に全力を出し切る取り組みにある。それを繰り返してきたことで、ゾーンに入れるようになった。

 

仕事でも、スポーツでもとにかく全力を出し切ると、結果がどうであれ、自分に自信がもてるようになる。それがさらなる挑戦を促す。そこでふたたび全力を出し切る。

 

すると限界も見えてくる。しかしその限界は、今の自分にとってであって、未来の自分にとってではない。全力を出し切り、挑戦し続けることで、限界をどんどん超えていくことができるのだ。「ゾーン」は、全力を出し切り、挑戦し続ける過程にある。

 

わたしが体験しているのも恐らく「ゾーン」に近い。ただし、気まぐれだ。切羽詰まる状況にならないと発揮できないようでは、火事場の馬鹿力と大差ない。火事場でなくても入っていけるようになるためのヒントも、この本には書いてある。

 

他のおすすめ本

『バブルを抱きしめて』島村洋子 著/KKベストセラーズ
元号が変わる前に、もう一度昭和を回顧してみよう。グリコ犯はなぜ阪神地区でジャイアンツ帽をかぶっていたのか。榎本美恵子の蜂の一刺しの顛末は?

 

『オンナの奥義 無敵のオバサンになるための33の扉』大石静 阿川佐和子著/文藝春秋
オバサン2人が語る恋愛論は、乾いているのにどこかかわいくて、それなのに背徳の匂いもありと、なかなかの味わい。

 

『松任谷正隆の素』松任谷正隆著/光文社
正隆ファン必読です。ルックスと声に惚れていたけれど、読んだら惚れ直しました。

 

『ゾーンの入り方』集英社新書
室伏 広治 /著

この記事を書いた人

今泉愛子

-imaizumi-aiko-

ライター

雑誌「Pen」の書評を2002年から担当。インタビューや書籍の構成ライターとしても活動している。手がけた書籍は出口治明『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、太田哲雄『アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』(講談社)など。ランナーとして800mで日本一になったこともあり、長いブランクを経て、再び日本記録に挑戦中。


・Twitter:@aikocoolup
・オフィシャルブログ「Dessert Island」:http://aikoimaizumi.jugem.jp/

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