デジタル時代に活字媒体はどう生き抜くか?――文藝春秋・新谷学『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』 に学ぶ

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『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』
新谷学/著

 

7月に月刊「文藝春秋」の編集長に就任した新谷学氏が上梓した仕事への思いを記した本である。週刊文春で「文春砲」と呼ばれるスクープを飛ばし続けた編集長経験者が書いた本と表現する方が分かりやすいかもしれない。気鋭の雑誌編集者がスクープと稼ぐ力の大切さについて説き、仕事に向き合う姿勢をつづった。

 

著者も記すように、週刊文春の「幹」はスクープだ。文春は近年、新聞やテレビなどが及ばないスクープを連発し、社会に影響を与えてきた。芸能人の不倫、検察幹部の賭け麻雀、総務省幹部の接待問題など、多くの人がすぐに思い出すことができるニュースも数多い。週刊文春が報じたことで新聞やテレビなどの大手メディアも一斉に追随し、社会が無視できない問題になってゆく動きがしばしば見られる。

 

本書を読んで感じるのはスクープを取ることの意義を繰り返し示す一方、メディアとして読者に広く読んでもらい、稼ぐ大切さについても強調している点である。その手法は、そこまで考えてやっているのか、と読む者をうならせるほどに徹底している。ワンソースをマルチ展開し、紙とネットを巧みに連動させることを含めてあらゆることに挑戦していることがわかる。

 

確かに現代は収支を度外視して紙の雑誌を作る時代ではない。ネットで稼ぎ、さらに紙でも稼ぐことが求められている。一方で著者は、そのバランスをしっかりとるべしとも訴える。稼ぐばかりが目的ではないということを強調する。

 

それは「週刊文春の看板を守りつつ、収益をあげる」という考えであり、大いに共感できる部分だ。週刊文春がスクープを狙い続ける上での生命線という点は、新聞や他の雑誌などにも通じることだろう。しっかりとした収益基盤があってこそスクープが生まれるのである。

 

スクープを狙いつつ、デジタル化も進めて稼ぐというビジネスモデルの追求は、既存メディアにとって並大抵なことではない。紙の媒体である週刊誌でありながら、スクープというコンテンツをどう買ってもらうか。どんな組織も変化を嫌う中で、本書に紹介されているように、ニュースサイト「文春オンライン」を週刊文春編集局に統合するにあたっての過程は、大変な作業であっただろうと想像する。

 

週刊文春の編集長、編集局長を歴任した経験から、決して逃げないことなどあるべきリーダー論も展開する。リーダーは最後に組織を守り、責任を取るためにいるのであり、それが危機管理の要諦であると訴える。

 

しかし、裁判や捜査機関に呼び出される時などもあり、そうした時は気が重いと本音を漏らす場面では、生身の人間としての苦悩も垣間見える。実際、スクープを連発する一方で、3か月休養を命じられて、自分の生き方を考え直した時期があったことも率直に記す。その際に常に考えたのは一緒に働いた現場の仲間のことだったという。デジタル時代に活字媒体がどう生き残り、いかに時代の変化をつかんで歩むべきかについて、多くの示唆を与えてくれる力作である。

 

『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』
新谷学/著

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ビジネス・経済分野を中心にジャーナリスト活動を続けるかたわら、ライフワークとして書評執筆に取り組んでいる。英国の駐在経験で人生と視野が大きく広がった。政治・経済・国際分野のほか、メディア、音楽などにも関心があり、英書翻訳も手がける。

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