痛快・おばさんメモリアル『女性政治家の通信簿』

鈴木涼美 作家

『女性政治家の通信簿』小学館
古谷経衡/著

 

 

日本のアラサー女性たちの深刻な悩みの一つに、羨ましく、憧れ、尊敬できるようなロールモデルがいない、という問題があるように思う。偉いな、立派だなとか、かっこいいですね、綺麗ですね、くらいは思うことがあっても、こういう生き方をしたい、そうかこんなふうに泳いでいけばいいのか、というような深い納得を持って見守れるようなロールモデルはイマイチいない。なんかみんなそれなりに頑張っているけど、別に誰にもなりたくない。

 

女性政治家に限っていうとさらにそんな存在はほぼ皆無なのである。20年ほど前に、たまたまテレビで東南アジア諸国と日本の女子大生に、尊敬する女性のアンケートをとるという企画をやっていて、確か日本の女子大生が尊敬する女性第一位が当時大人気女優だった山口智子で、アジアの女性たちがスーチー女史などを挙げている中で、日本のJDはなんて民度が低いんだ、とコメンテーターが嘆いていたのだが、今アンケートをとったところで、大差ないだろう。羨ましい、憧れる、という政治家がいないんだからしょうがない。

 

古谷経衡による本書は、小池百合子、辻元清美、今井絵理子など、今現在目につく女性政治家を大変手厳しく、しかしネットに浮遊する言説のようなアンフェアな誹謗中傷なしに、現実的に評価する。小池百合子が鼻についてしょうがない、稲田朋美はばかっぽい、なんか辻元清美がムカつく、山尾志桜里が人気の理由がわからない、などなど、私たちが感じる「なんか嫌い」や「なんとなく気にくわない」のなんとなくの部分を、古谷流のウィットに富んだ例示やトリビアルな歴史も交えながら、丁寧に解体してみせる。

 

女政治家の悪口を言いたい人はまず絶対に読んでおくべきだ。若手保守論客として注目を浴びる古谷に比べて私自身はやや左巻きのところから出てきたような経緯はあるが、それでも例えば辻元清美のワンパターンな自民党批判を、第二次世界大戦ガダルカナルの戦いにおける日本軍の失敗を例に出しながら揶揄する箇所など大変痛快である。山谷えり子の危惧する性の乱れを彼女の妄想と言い切るところは大変笑える。

 

男が女を評することは、実は近年のこの雰囲気の中ではかなり勇気ある行動だ。多少でも見た目のことや女性性のこと、年齢や出自のことなどを触れれば、たちまち、女性差別的なんじゃないかという波紋を呼び、フェミ寄りのおばさんたちが怒り出し、誰だかよくわからないネットの道徳警備員たちによって炎上させられる。古谷自身これまでもネットピーポーとのトラブルは経験済みなはずだが、本書が面白いのは、そういったことへの特別な気遣いや配慮なしに紡がれているからであろう。平気で美人だからとか、無教養だとか言う。小池百合子が言うところの「鉄の天井」なんてものは鼻で笑う。

 

現代社会で、女が女を批判する時ならまだしも、男が女を批判する時に、ガラスや鉄の天井のせいなんかじゃない、と言える覚悟は想像以上のものだ。しかしそれが全く不快さを伴わないどころか、変におばさんに気を使った物言いよりずっとフェアな感じすらする。こんな芸当ができるのは、古谷自身に何かしらの特殊能力があるからとしか考えられない。

 

私の想像に過ぎないが、それは古谷が男のことも女のことも本気で好きだし嫌いだし、な公平さを持っているからなんじゃないかと思っている。そういえば古谷の見た目もV系なんだかフェミニンなんだか落ち武者なんだかよくわからない不思議な感じである。彼が、他の脂ギッシュなおじさんが言ったら差別的になりそうなことを、全く差別的でなく言えるのは、別に本気でそんなオヤジ的価値観なんて思いもよらないからなんじゃないか。そう考えると時間だけかかって特にメリットのなさそうなあの髪型も、彼の特殊能力をそれなりに説明するのかも。

 

『女性政治家の通信簿』小学館
古谷経衡/著

この記事を書いた人

鈴木涼美

-suzuki-suzumi-

作家

1983年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2013年、修士論文を元にした著書『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』(青土社)を刊行。2014年に日本経済新聞社を退社。AV出演、ホスト通い、キャバクラ勤務などの経験にもとづいた恋愛、セックスに関する論考などを多数執筆している。近著に『オンナの値段』(講談社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)などがある。

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