池上彰さんが教えてくれた、質問力を高めるたった1つのコツ『知の越境法 質問力を磨く』

戸塚啓 スポーツライター

『知の越境法 質問力を磨く』光文社新書
池上彰/著

 

 

本の背表紙にあるプロフィールの最初に、「フリージャーナリスト」とある。池上彰さんは毎日のようにテレビやラジオに出ていて、大学で教鞭を執っていて、その間にはきっと講演などの仕事も山のようにあるのだろうから、「評論家」とか「政治学者」とか「大学教授」といった肩書を全面に出してもおかしくない。

 

それでも、池上さんは「フリージャーナリスト」の肩書を最初にしている。取材現場へ足を運んで原稿を書くことが、池上さんの仕事の軸足なのだろうと思う。「スポーツライター」を名乗っている自分としては、『知の越境法』というタイトルではなく「質問力を磨く」のサブタイトルに惹かれた。

 

「質問力を高めるには、素朴な質問を恐れない、ということが大事です」と池上さんは言う。「あるいは、これを聞いたら恥をかくとか恥ずかしいと思わないことです」と。

 

はい、そのとおりだと思います!
でも、僕、恥ずかしがっています……。

 

何百人という記者が集まっているスポーツの会見場で、それも時間の限られたなかで、的外れな質問をしたら。「質問された監督や選手が、機嫌を損ねるかもしれない」とか、同業者に『何をヘンなこと聞いてるんだよっ』と心の中で舌打ちされないだろうかーーそうやってビビっているうちに会見は終了してしまい、質問をのみ込んでしまうことの、何と多いことか。

 

トラウマもある。とあるサッカーの監督に質問をしたところ、「それは実際に監督をやったことのない人には、いくら説明をしても分かりませんね」と、あっさり切り捨てられてしまった。そもそも強気なタイプでない僕は、何も切り返すことができなかった。惨敗である。

 

池上さんもそういう人と出会ったことがあるようだ。「政治家やスポーツ選手のなかには『そんな馬鹿な質問をするな』というタイプがいます。私は『何が馬鹿な質問ですか。あなたが答えられないだけでしょ』と思うようにしています」と書いている。

 

ああ、池上さんのような高名なジャーナリストでも……と、ホッとすると同時に、自分の甘さに気づかされた。池上さんは一度や二度どころではなく、何百回も「そんな馬鹿なことを聞くな」という態度を向けられたり、実際にそういう言葉を投げつけられたりしたのだと思う。一度や二度で挫けていたら、僕のように「トラウマがあって」と言い訳をしてしまうはずだからだ。聞きたいことを聞かないでいる自分が、とても恥ずかしい。

 

本書が勧める『知の越境』とは、「専門外ではないことにも興味を持つ」ということだが、越境は質問力を高めることにもつながる。

 

「知は横につながると面白い。あまり話が転がらない場合、お互いに燃料としてくべる材料の持ち合わせが少ないか、あまりにも同質の燃料しか持っていないかのどちらか」だと池上さんは言う。

 

違う燃料をくべることで会話が弾んだ、という経験は僕にもある。心を開くスイッチは人それぞれで、サッカー選手だからサッカーの話題とは限らない。サッカーも、インタビューも、たぶんそれ以外の仕事も即興性とか柔軟性はとても大切で、そのためにも知の越境は役立つ。

 

というわけで、好きな作家の小説ばかり読んでいる読書のパターンを、ちょっと見直してみようと思っている。

 

『知の越境法 質問力を磨く』光文社新書
池上彰/著

この記事を書いた人

戸塚啓

-totsuka-kei-

スポーツライター

1968年神奈川県生まれ。法政大学法学部卒業後、'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。編集者・記者としてJリーグ、日本代表を担当。'98年秋よりフリーに。『Sports Graphic Number』などのスポーツ誌で様々なスポーツノンフィクションを手がける。近著に『僕らはつよくなりたい~東北高校野球部、震災の中のセンバツ』(幻冬舎)、『不動の絆~ベガルタ仙台と手倉森監督の思い』(角川書店)、『低予算でもなぜ強い?~湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)がある。

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