akane
2018/04/26
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2018/04/26
~十割牛肉バーグの重量級トルコライス~
都内を散策がてら、ついでに寄り道グルメというコンセプトで、安ウマグルメをあれこれ紹介する連載の第2回目。
ぼくはまたもやメトロを途中下車し、ニュー新橋ビル1階にいた。銀座に用があって出ていても、腹が減って向かうはいつも新橋なのだ。
しかし、大盛りナポリタンやジャンボオムライスで有名な「むさしや」には行列がなおもできている! 界隈でナポリタンといったら、駅を挿んで反対側の新橋ビルに「カフェテラス・ポンヌフ」がある。
だが、折しも雨が降っており、徒歩5分とはいえ、いささか移動が面倒だ。ポンヌフといえば、分厚いハンバーグが乗っかったナポが美味いのだが……。
そんな時、「新橋バーグ」なら、むさしやとポンヌフのピンチヒッターになってくれる。この激戦区で2016年11月デビューとはいかにも新参者だが、ここでは「トルコライス」と名のつくワンプレート洋食が食べられるのだ。
ぼくは昔からトルコライスに弱い。トルコと聞くだけで、もはや陶然としてしまう。トルコ石にトルコキキョウにトルコ行進曲、たっぷり泡の立ったトルココーヒー……。かといって、トルコ料理が好きなわけでもない。だから、近頃流行りのドネルケバブ(あれは汎中東料理だが)の屋台にも、さほど惹かれない。トルコがどんな国かもわからなかった子ども時分に、あちこちの洋食屋で出していたトルコライスに執着しているだけなのだ。
このトルコライスの起源には様々な説がある。笑えるのが、「トルコ風呂」由来説。1958年に長崎市で「レストラン元船」を経営していた松原三代治という人が、女性の鮮やかな着物の後ろ姿を見て、思いついたのだが、ちょうど黎明期のトルコ風呂(1984年にソープランドと改称)が人気を呼んでおり、それにあやかって「うんと精力がつくように」という意味を込めたのだという。
トルコにもピラウという米料理は存在する。いわゆるピラフだが、シンプルなバターライスだったり、羊肉や魚介が入り、それだけでご馳走となったりする。おそらく大元の語源はそこにあるのだろう。おそらく誕生の時期と、その場所が長崎だったのは確か。
トルコライスは、ピラフ・ナポリタン・トンカツの3種類が並んだ”大人版お子様ランチ”とも呼べる一品。トンカツの代わりがハンバーグという例も多々あり、ピラフではなく、ただのライスにカレーをちょいがけパターンにも出くわす。ともかく、麺・米・肉の3拍子揃えばなんでもいいのだ。
フランス国旗のトリコロール(イタリアだとトリコローレ)にヒントを得たとの説もあるが、赤(肉)の友愛と白の平等(米)はいいとして、自由を意味する青の料理はなんなんだ? …はさておき、ぼくがトルコライスから感じるのは、まさしくその自由だ。
本場長崎では、「レストランかじ」で食べたことがある。750円の通常の品はカツのみトッピングされるが、1030円のスペシャルと銘打った豪華版では、ハンバーグとエビフライが載っていた。
ピラフはさらりとし、カツもほどよい量。なによりナポの濃い味に、昭和がゾクゾク感じられた。
月並みな表現だが、平和公園を訪れた足で、『この子を残して』の著者である永井隆博士の旧邸(といっても二畳一間の小さな病室)の如己堂を見学した後だったので、自由と平和のありがたみを噛みしめざるを得なかった。「かじ」は如己堂のごく近くなのだ。
さて、そんなことを思い返しながらの新橋バーグのトルコライスバーグ(750円)。
さすがに主役は、牛100%のバーグである。しかも、ヌーヴェル(新しい)というよりヴェイユな(古い)バーグ(いや、あちらはヴァーグでしたね)。
ナイフでカットしたとたん、肉汁がたっぷり溢れるが、そこまで粗挽きではない。お箸で食べるのに向いたムッチリ感がある。
サフランならぬターメリックライスは、50円で大盛りにできる。そうすると、200gのバーグの倍近く盛り上がって、そこへ目玉焼きが載るので、まるで墳丘墓のようだ。
これを突き崩しながら、ドミグラスソースと柔かめの目玉焼きの卵黄に絡めつつ、しっとり肉々のバーグとともに頬張ると……けっこうイケる!
空腹を一気に満たして外へ出ると、雨はもう止んでいた。次の予定までまだちょっと時間がある。
つい、レストランかじを思い出し、気持ちが長崎に飛んでいる。日本橋にアンテナショップの「長崎館」があったな。なんでもリニューアルオープン記念イベントで、郷土芸能「龍踊り」を披露しているのだと。
じゃあと重い腹を抱え、メトロに再び飛び乗るぼくだった。
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