親と一緒に暮らすコツ 浅川家の同居のルールとは
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

住まいが完成し、後はショップと外周りの工事だけになった浅川邸。昨年の年末には何とか引っ越しに漕ぎ着けました。あやさんのご両親も慣れ親しんだ福岡の地を離れ、二宮での同居が始まったばかり。一人っ子のあやさんですから、両親のことは歳を重ねる毎に気がかりであったことでしょう。

 

「将来のことを考えると、いずれは同居をすることになるだろうと。それならば、両親がまだ元気なうちに新たな生活の基盤をつくる方が楽だと思い、最初から同居を踏まえた家づくりを計画しました」

 

高齢化が進む日本に於いて近親者の介護を考えることは、誰しも避けては通れない問題です。先送りしていると、ある日突然の変化に戸惑い、右往左往することになりかねません。これは筆者の経験からお伝えしたいのですが、衰えによる病は突然やって来て、高齢者ですから回復することは難しい場合が多く、それまでの生活は一変します。介護をする側の日常も同様に変わらざるを得ません。私事ですが、母の介護をしていた数年に及ぶ日々は正直大変でした。何とか乗り越えられたのは、周りの方々のご厚意と社会福祉のサポートを全面的に受けることが出来たからで、それは幸運だったとしか言いようがありません。あやさんのように、親が元気なうちに将来を考え話し合っておくことは、自分の暮らしを守る上でも必須なのだと実感しています。

 

さて、話が少し深刻になってしまいましたが、あやさんのご両親は元気で、日々をアクティブに過ごされています。だからこそ、お互いの暮らしのリズムや趣向を確認する作業は大切なはず。

 

家族のだんらんはリビングで

 

「実の親である気軽さはありますが、それでも私は、既に夫と息子との生活が出来上がっていますから、暮らし方への話し合いや確認をすることは、常に怠らないようにしています。とにかく無理や我慢をしないこと。遠慮した方が、その場は丸く収まることもあるけれど、思っていることを胸に納めてしまうのは長い目で見ると良くないと思うんです。日本人は “察する“ ことを得意としていますが、伝えなければわからないことも多いですよね。先日のこと。父は少し耳が遠いので、テレビのボリュームを大きくしています。母は、そのことを気にしていたようなんですが、私たちが普段から大きな音で楽器を弾いたりしているのを見て『音はあまり気にしなくていいの?』と聞かれて、私は、そのとき初めて母がテレビの音を気にしていたことを知りました」

 

些細なことでも、他者のする日常の行動で気になることがあると、それは日々積み重なっていくことで意外なほどストレスの要因になり得ます。思いやりはもちろん大切ですが、寝食を共にすることは綺麗事でかたづけられない事柄もあるのは事実です。それを踏まえ何か決め事などあるのでしょうか。

 

「住まいに関して特にリクエストされたことはありませんが、家計簿をつけ、生活費に関しての取り決めをしようという提案がありました。財布は別々ですから。お互いの出費を明確にしておくことは親子であっても大事で、母は義理の父母(あやさんの祖父母)との同居経験から得た思いや知恵を生かしているのだと思います。それ以外は、私たち夫婦を主であると考え、なるべく口を出さないように最初から決めていたみたいです」

 

空間として気にかけたことは、両親の部屋は1階に設え、玄関やバス、トイレ、キッチンといった場所への動線を短くスムーズにする配慮があり、あやさん夫婦の部屋との距離は離れた位置としました。

 

「昨今はバリアフリーが提唱されていますが、我が家は、今現在それを考えていません。両親は元気なので、なるべく一緒に手足を動かし生活して欲しいんです。庭仕事も一緒にしてもらい年寄り扱いしません。特別扱いせず、お互いに好きなように過ごし、もし、出来ないことがあればカバーし合うのが良いと考えています。どうしても住まいに不自由を感じる状態になったら、そのときに適切な設備を加えられるようシンプルな設計にしました」

 

庭仕事中の母

 

二宮での暮らしは、ご両親にとっても新鮮な驚きがあるようで、ノコギリなど使ったことのないお母さんが、庭で倒木を切る作業を上手にこなし新たな才能?を発見。福岡では車移動ばかりだったお父さんは、電車であちこち出かけることを満喫しているそう。

 

「私自身も新しい発見がありました。常にお茶と温かなご飯がないと嫌な両親のために、電気ポットと炊飯ジャーを購入。使ってみるとやはり便利なんですよね。電化製品を少なくすることを目指していたんですけれど、あまり頑なになって自分たちの価値観を押しつけるようなことはしたくないですよね。ストレスを与えることになりますから。それに、何より良かったのは、家族が増えたことで余裕が生まれたこと。料理も母と一緒にすればスピーディーだし、味付けや料理のレパートリーが増えて、出かけるときもカバーし合える。息子も父と大の仲良しで、何というか、逃げ場ができたんですよ。私に叱られたとき、ひとりで落ち込まないですむ。親以外の大人と接することが彼の成長の助けになっていると感じています」

 

同居にあたってキッチンに仲間入りした炊飯器と電気ポット
父と楽の後ろ姿

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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