花は買わない、風を感じる サステイナブルな暮らしを生む 住まいの外回りのこと
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

ryomiyagi

2020/03/31

春の足音が聞こえてきた頃から、浅川あやさんの家づくりの作業は、住まいから外周りを整えることにシフトされています。職人さんの手も借りてはいますが、家族で作業をすることがほとんど。元々土に触れることが大好きなあやさんですから、大きな倒木があってもなんのその。この場所を選んだ理由にも、広い庭が欲しいという夢が基本にありました。

 

「家のキッチン前に、外で作業するための作業場をつくりました。そこに薪や庭づくりの道具を置いていますが、テーブルや椅子もあるので、時々そこでお茶をしたりゴハンも食べたり。それが何とも気持ちよくて、外で食べるだけでいつもより美味しく感じたりするんですよ。不思議ですね」

 

晴れた日の外ごはんは格別

 

内と外の境界線が曖昧な家をつくりたいと、最初から語っていたように、テラスとリビングには段差が無く、大きな一枚ガラスの掃きだし窓を開ければ、そのままアウトドアリビングになる設計の住まい。木々を通ってくる風や、鳥たちの囀り、木漏れ日、そんな庭からの贈りものは家のなかに居ても存分に楽しめます。でも、自然が何より大好きなあやさんは、より外との一体感を求めているようです。そのための労働だから、チェーンソーを使うことも、鍬で竹の根を掘ることも大変には感じていないのかもしれません。

 

「倒木や雑草でぼうぼうだった庭ですが、少しずつ歩ける場所を広げています。その過程で楽しい発見があったんですよ。倒木の下にカブト虫の幼虫がいたり、野いちごを見つけたり、そうした寄り道をしながらの作業なので、なかなかはかどらないけれど、それそのものが楽しみでもあるんです」

 

この敷地には以前の住人が植えていた樹木や草花があり、50年放っておかれたことで野生として育った逞しい美しさがあります。あやさんは、その美を大切に保存し一緒に共存することを目指しています。
「わざわざ花を買って生けることもしなくなりました。少し前は石蕗がたくさん咲いていて、今は藪椿がみごとなので、少しずつ庭からお裾分けしてもらい家のなかにも飾っています。昨年末には、千両も実が立派に育っていたので玄関に飾りました。それからアプローチにあるニッキの木も、葉からスッーと爽やかな香りが漂います。庭仕事に疲れるとその葉を取って深呼吸、癒されますね。そうした時間を過ごしていると季節の移ろいを肌で感じ、空が綺麗なだけでも“毎日ありがとう“という気持ちになります」

 

ニッキの木

 

買いもの以外で外出することは、以前にくらべとても少なくなったそう。自分たちの思いが形になった家で過ごすことの寛ぎと、自然とも触れあえる楽しさが充足感を生み、それは周りにいる友人たちにも伝わって、毎日のように誰かしらがお茶を飲みに来るそうです。
「ちょっと立ち寄ってくれる、訪問というほどの大それたものでなく、気軽に人が顔を出してくれる感じが嬉しいです。ここで店もやっていくわけで、開かれた雰囲気は大事にしたいと思っています」

 

その開かれた場所であることを、一番に感じ取っているのは子どもたち。楽君の友だちが毎日遊びに来ています。取材中も元気な男の子が次々来て、庭を駆けまわって遊んでいました。
「楽がいなくても、我が家に寄って遊んでいく子もいます。焚き火ができる環境なので、焼き芋をしたり、マシュマロを焼いたり、美味しいものを食べられる遊びは大人気ですね。それから、あちこちに隠れられる場所があるので秘密基地をつくっているみたいです」

 

気持ちいい空の下での焼き芋は大人にも子供にも好評

 

あやさんの住まいと庭、そして「日用美」の未来予想図は楽しい計画でいっぱい。庭には雨水タンクや簡易コンポストも設置していて、資源を循環させサステイナブルな環境づくりにも意欲的です。こうした意志のある庭づくりのお話しは、また改めてご紹介します。

 

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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