akane
2018/11/13
akane
2018/11/13
緑の多い場所や海沿いを散歩するのは好きですが、都市型の生活を送っている身としては、整備された環境や滞りなく与えられるエネルギーは享受したいし、それに依存しているのも確かなことです。でも、昨今あらゆる災害に見舞われ被災する日本各地の様子を見るにつけ、こうした暮らしの営みが、いかに脆弱な基盤の上に成り立っているのかを思い知ることになりました。
もちろん、科学や技術が発展することで得られるものが悪いわけではありません。重労働を伴わない暮らしは快適で、もたらされた時間を有効に使うことが出来るのは素晴らしいことです。しかし、それに慣れきってしまった結果、私たちは、あまりにひ弱になってしまったのかもしれません。便利なものを、よく確かめもせず受け入れ、安全を蔑ろにしたこともあるでしょう。
私たちはみんな失敗する生きものだから、仕方ない。けれど、そこから何かを学ぶ知恵も持ち得ています。少し立ち止まり、生きるための環境を見つめなければならないと、ボンヤリしている私でも考える今日この頃です。
浅川あやさんは、違和感を持っていました。社会が抱えている脆弱さを、ほぼ皮膚感覚で、動物の持つ本能のように。
「子どもの頃から持っていた感覚なので、言葉で説明するのは難しいけれど、自然の近くに居る方が気持ちがいいんですよ。その方が良いのだと漠然とですが信念のようなものがあって。都会にあるものがすべて嫌なわけではなく、そこにある文化だったりはとても大切なんです。でも、日々のなかで感じる鳥の声や自然の風、緑や土の匂い、そこで遊ぶ子どもたちの声、そういうものに触れるたびに、あ~、幸せだなぁ~と。」
東京での暮らしを経て、鎌倉に引っ越してからも、どこか居心地の悪さを感じていたあやさんですが、そんな折、息子の楽君を預ける先を探していたときに、パーマカルチャーを実践している保育園を見つけました。パーマカルチャーとは、オーストラリアから端を発した生活全般をデザインする考え方で、基本になっているのは、自然のシステムをよく観察し、伝統的な暮らしの知恵を学んで、それに現代の適正と判断した技術的知識を融合させるというもの。永続可能なエコロジカルなシステムをつくりあげ、豊かに暮らすことを目的としています。
「正直それまでは何故かいつも不安を感じていて、何をするにも人の目が気になったりしていたんです。だけど、子どもを預けるために見つけた保育園が、私たち親子にとって運命的な出会いとなりました。最初に園長さんと会ったとき、安全第二とおっしゃった。つまり怪我することを心配しすぎるより、子どもの好奇心を優先する考え方なんです。自分の育った環境にも共通していることだったので安心できたんですね」
お遊戯やイベントなど、みんなと同じことをさせるのではなく、自分のペースで日々のなかにある冒険や遊びを発見することに重きを置く。そうした方針があやさんにフィットしました。そして何より、彼女自身が自己肯定することができたのです。
「自分はこのままでいいんだと思えるようになった。それに無駄なものは何もないとも思えた。園では、畑を見渡せるアウトドアキッチンで料理をつくることもあれば、泥んこ遊びもするし、植物を使って自分を表現したり、とにかく自由なんですね。その遊びのなかから自然というものを知り、何が自分にとって最善なのかを自分で考える力を養える。楽は、いろいろとチャレンジするようになったし、以前より大らかになったと感じます」
健やかに生きるための知恵を、自然に寄り添い、暮らしのなかから発見する試みを実践している毎日。浅川さん一家の家づくりは、こうした日々からスタートしました。
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