生きやすくなるためには方法があった!自分に「ご褒美」を与える実験結果
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◆想定した以上の変化

 

『もしかして、私、大人のADHD?』の著者・中島美鈴先生が行ったADHDの人のための認知行動療法プログラムは、2016年に福岡市内でスタートし、これまでに32名の人がプログラムを修了しています。
そのプログラムは、時間管理を内容としたプログラムで、時間管理に関する行動面での変化を想定していたそうですが、グループの中で起きた変化は想定する以上のものだったそうです。

 

私にはADHDのせいで失った時間があまりに多い。
それを取り戻さなくてはという焦りもある。
そんなできていない自分にご褒美なんて、いけない気がする。

 

削り込んで低くなった自尊心が日常化して、このような考えが当たり前になっていたのです。

 

◆自己報酬マネジメント

 

本書で紹介する対処法の一つに、自己報酬マネジメントがあります。
仕事や生活上の作業でどうしてもやらなければならないことをさせるために、自分で即時性のある報酬を設定して、集中力が維持でき、継続できる環境を整えるという対処法です。

 

これは、ADHDが起きる仕組みの中で、「報酬遅延の障害」があるときに有効な方法です。ADHDの診断を受けている人やADHDタイプの人は、報酬遅延の障害のために報酬の魅力は大きくても時間のかかる作業を嫌い、報酬が小さくても即時性のある作業を好む傾向があるからです。

 

しかし、これが洗濯や炊事、掃除などエンドレスに続く日常生活のすべてに自己報酬マネジメントを設定することを繰り返すのは、かえって大変なことです。

 

このような場合には、複数のやるべきことをひと続きの流れにして一気に行う「ついで作戦」といった考え方も提案しています。

 

◆逆説的な方法が起こした変化

 

先ほど紹介した、大きな変化を得た人は、果敢にも、ご褒美に値しない自分からの脱出を試みました。いけないことだと思い込んでいるご褒美を与え続けるという実験です。

 

しばらくすると、少しずつですが、その人に変化が見えました。ご褒美を自分に与えることに慣れてきたというのです。
表情が晴れやかになり、先延ばしの癖がついた様々なことをこなせるようになっていきました。
行動が思考を変えるという実例を目の当たりにした、私にとっては衝撃的な出来事でもありました。

 

中島先生は、この人のほか、様々な変化を目の当たりにし、時間管理プログラムとは、時間を管理していたというよりも、自分自身を管理する、むしろ、自分自身を創造するプログラムだったのではないかと振り返っています。
時間管理の必要性は、近年急速に高まってきているそうです。

 

近年、「うつ病」のために職場を離れる人の例に接する人も多いと思いますが、本書で紹介している時間管理プログラムは、一度精神的な問題のために仕事を休むことになった人を対象に医療機関が行っている、職場復帰のためのリワークプログラムとして提供されているそうですし、ある幼稚園では、保護者向けにこの認知行動療法プログラムを提供し、自分自身の時間管理だけでなく、我が子に時間管理を教える試みも始まっているのだそうです。

 

本書で紹介する様々な対処法は、このプログラムと共に生まれたものですが、目指すのは、単なる気休めやなぐさめではない「生きやすくなるための対処法」だと中島先生は言います。

 

ADHDの診断を受けた人だけではなく、ADHDではないけれども、ADHDの特性によって悩んでいる人、ADHDではない人にも使うことができるものばかりです。

 

怠けているわけでも、悪意があるわけでもないのに、何度注意されても同じミスを繰り返してしまう、複数の業務に対してパニックを起こしてしまう、家事が滞りがちで育児や住環境に影響が出てしまう、子どもが言うことを聞いてくれないなどといった悩みをお持ちの人、そうした悩みに苦しむ人が周囲にいる人に手に取ってみて欲しいと思いました。

 

 

この記事は『もしかして、私、大人のADHD?』(光文社新書)より一部を抜粋、再構成してお届けしました。

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もしかして、私、大人のADHD?

もしかして、私、大人のADHD?認知行動療法で「生きづらさ」を解決する

中島美鈴(なかしまみすず)

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