人の判断基準はコロコロ変わる。5000円のTシャツは高いか? 安いか?
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行動経済学者のカーネマンとトヴェルスキーは、人の意思決定の過程を「プロスペクト理論」というもので説明しました。「プロスペクト理論」とは、人が感じる「価値」が、客観的な損得(例えばお金)などでどう変化するかを説明するモデルです。客観的な損得は「0」を基点に、それより大きければ「利得」、小さければ「損失」となりますが、「利得」と「損失」で「価値」の変化の仕方が異なるというのが、この理論の一つの大きな特徴です(この他、利得や損失が大きくなるほど、感応度が逓減するという特徴も有名です)。

 

例えば、人は利益を得られる場面になると、(利益)額は少なくても、確実性の高い選択肢を選ぶ傾向があるのに対し、損をする場面だと、リスクはあるけれど、イチかバチかで(損失)額が少なくなる(失敗すると、より大きな損失が発生する)選択肢を選ぶ傾向があるということです。

 

カーネマンとトヴェルスキーが挙げた、わかりやすい例を引用します。

 

問1: あなたが現在持っているお金に加えて、1000ドル(日本円で11万円前後)もらいました。この状態で、次の選択肢のどちらを選びますか?

 

選択肢A:50%の確率でさらに1000ドルを得る

 

選択肢B:確実に500ドルを得る

 

問2: あなたが現在持っているお金に加えて、2000ドルもらいました。この状態で、次の選択肢のどちらを選びますか?

 

選択肢C:50%の確率で1000ドルを失う

 

選択肢D:確実に500ドルを失う

 

問1では、8割以上の回答者が選択肢Bを選んだのに対し、問2では約7割の回答者が選択肢C(リスク選択肢)を選んだそうです。確率も考慮した金額の上では、選択肢AとC、BとDが同じなのにもかかわらず、利益が得られる場面と損失が発生する場面では、意思決定の仕方が変わるということです。おもしろいですよね。

 

さて、この「プロスペクト理論」の特徴の一つに「参照点依存性」というものがあります。これは、人が常に〝絶対的な〟判断軸を持っているのではなく、その時々の環境、状態によって判断軸が変わる、という性質です。

 

その判断のスタートになる部分を「参照点」と呼んでいます。私が大学院時代に受けた「意思決定理論」の講義の中で、この参照点に関するレポート課題があったのですが、私は“ついで買い”と参照点について考察しました。

 

当時、学生だった私は、5000円のTシャツを高いと感じていました。普段なら買いません。しかし、3万円のジャケットを買った時に、店員さんに5000円のTシャツも勧められ、“ついでに”買ってしまったのです。既に3万円を支払う気持ちになっていたので、3万5000円も大きくは変わらないと考えたのでしょう。これが、参照点の移動です。0円から考える5000円と、3万円から考える3万5000円は同じように考えられない、と言い換えられます。

 

家や車などの大きな買い物をしたことがある方なら、その例の方がわかりやすいかもしれません。普段考える10万円と、400万円の車を買う時の10万円のオプションは、同じようには考えにくいと思います。“感覚がマヒする”ということもあるかもしれませんが、このような判断のスタート部分が参照点であり、それは環境や状態で移動するのです。需要予測においても、この「参照点の移動」は見られます。

 

 

以上、『品切れ、過剰在庫を防ぐ技術』(光文社新書)を一部改変して掲載しました。

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