2018/10/08
吉村博光 HONZレビュアー
『家族のためのユマニチュード』誠文堂新光社
イヴ ジネスト/著 ロゼット マレスコッティ/著 本田 美和子/著
少子高齢化の急速な進展を予言した『未来の年表』がベストセラーになった。今後日本が、総介護社会に突入するのは間違いないだろう。おそらく、自分もいずれ介護される時がくる。その時、今のままでは本当にヤバい。何がヤバいって、介護する人がいないのだ。
その意味では、もはや移民の受け入れは必至だろう。しかし、来てくれるのはしばらくの間だけで、新興国が経済発展を果たせば、若者たちは、衰退が進む日本などには目もくれなくなるに違いない。
では、どうすれば良いのか。私は、自分達の内面を変えることだと思う。本書は、NHK「あさイチ」などでも紹介された“その人らしさ”を取り戻す、優しい認知症ケアの手法を紹介した本だ。
このユマニチュードという考え方が広まれば、何が起きても怖くないと私は考えている。意識は、早く変えるほうが良い。もしいまあなたが、自分のすべきことを十分に果たせてないのに外面だけ良かったとしたら、要注意だ。
中二病という言葉もある。若いということは、一般的に独りよがりなものだ。しかし、歳を重ねるうちに、相手と自分との違いに気づき、周囲の人を尊重することを覚えていく。それのセンスこそ、介護者としての才能なのかもしれない。本書から引用する。
人間にとって「自由であること」や「他者に優しくあること」は大切であると多くの人が考えている一方で、家庭や施設、病院などの介護や医療の現場では、ご本人のためと思って一生懸命やっていることが、結果的に無理やり行う強制的なケアになってしまったり、痛みを伴うケアになってしまったりしています。 ~本書「はじめに」より
私は、最近、両極端な二つの現場に遭遇した。かたや、時には無理やり強制的なケアをしながら、少ない介護者で強引に運営されている介護施設。かたや、正面から高齢者の目をみて笑顔で話しかける、十分な数の介護者で運営されている介護施設だ。
いま、介護の現場は人手不足である。介護する側とされる側の信頼関係を築く、このユマニチュードという手法は、一見非効率的だ。しかし、この手法を導入した現場では、むしろ、介護者の負担を軽減できることが報告されているというから驚きである。
回り道のようにみえて、人手不足の解消にもつながるーーこの“魔法のような”ケア技法を、介護事業の経営者の方々に知ってほしい。経営合理化のどんな参考書よりも、きっと役に立つだろう。
なぜならユマニチュードは、質の低い労働力をつなぎとめようとする努力ではなく、ヒトという経営資源の価値を高めようという経営努力だからだ。トップの変革によって、現場は変わる。私が歳をとったら、ユマニチュードによる介護をうけたい。
そんな切実な思いで、いま、私はこの原稿を書いている。
本書は難しい専門書ではない。認知症の症状についての理解をうながし、「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を通じて、優しい思いを伝えるケア技法である。本書からの抜粋で、具体例をいくつかあげる。
「見る」
認知症の人が認識している視野は私たちが想像しているよりも狭いものです。
「話す」
「無言」は、存在が否定されているように感じさせる
「触れる」
誰かにつかまれたとき、人は自然な反応として「この人に強制されて、自分の自由が奪われている」、「何か罰を受けている」ように感じてしまいます。
「立つ」
1日20分立つことができれば寝たきりにならない ~いずれも本書第4章「ユマニチュードの4つの柱」より
これは、誰にでも理解できることではないだろうか。また、「ごはんを食べてくれない」「不安で落ち着かない」など症例への具体的な対象法も紹介されている。イラストつきで家庭介護者にも優しい本だ。
「ユマニチュードよ、日本中に届け!」この願いをレビューに込めたい。
『家族のためのユマニチュード』誠文堂新光社
イヴ ジネスト/著 ロゼット マレスコッティ/著 本田 美和子/著