下界に降臨したロック・ギターの超人を「体験したかい?」【第61回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

41位
『アー・ユー・エクスペリエンスト』ザ・ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス(1967年/Track/英)

Genre: Psychedelic Rock, Acid Rock, Blues Rock
Are You Experienced – The Jimi Hendrix Experience (1967) Track, UK
(RS 15 / NME 144) 486 + 357 = 843
※42位、41位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Foxy Lady, M2: Manic Depression, M3: Red House, M4: Can You See Me, M5: Love or Confusion, M6: I Don’t Live Today, M7: May This Be Love, M8: Fire, M9: Third Stone from the Sun, M10: Remember, M11: Are You Experienced?

 

彼をロック・ギターの「神」と呼ぶ声がよくあるが、それは決して大袈裟な比喩ではない。「あの当時すごかった」だけではない。いまに至ってもなお、本質的な意味で彼を超えられたギタリストは、ただのひとりもいない。〈ローリング・ストーン〉が選ぶ「史上最も偉大な100人のギタリスト」ランキングにおいて、最初の03年版、11年の改訂版、そのどちらにおいても揺るぎなく「1位」だったのが彼、ジミ・ヘンドリックスだ。言うなれば『ドラゴンボール』みたいな、マンガ的な意味での「超人」性を発揮した、破格のギタリストのデビュー・アルバムがこれだ。

 

本作は、彼が率いるバンド、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス名義にて制作された。彼の天才性に気づいたのは、イギリス人のほうが早かった。ヘンドリックスを「発見」したマネージャーは、イギリス人である元アニマルズのチャス・チャンドラーだったし、バンド・メンバーの2人も同国の白人青年だった。ビートルズ、ローリング・ストーンズのメンバーはライヴに詰めかけた。エリック・クラプトンやジェフ・ベックら、同世代のトップ・ギタリストたちは異口同音に、ヘンドリックスへの賞賛――と言うよりも、明確なる驚愕と憧れの弁を、数多く残している。そんな環境のなか、故郷から遠く離れたロンドンにて録音されたのがこのアルバムだ。

 

人気曲のM1は、幾度カヴァーされたことか。ヘンドリックス奏法の特徴のひとつである「フィードバック」サウンドからこのナンバーは幕を開ける。エレクトリック・ギターとは、ピックアップが取り込んだ振動を電気信号に変換し、それによりアンプのスピーカーを「鳴らす」。この「鳴った音」をふたたびピックアップに取り込むと、ノイズが発生する。「ハウリング」などと日本では呼ぶこともある、狼の遠吠えみたいな、歪んで裏返ったようなこの「雑音」を、自由自在に演奏に取り込むことにかけて、ヘンドリックスは完全なる先駆者だった。エフェクターも多用した。それら進取の気性が、彼のベーシックにある、熱くたぎる「ブルース」ロックの血を、それまでだれも想像しなかった次元の音楽へと飛翔させたのが、このアルバムだ。

 

そして、アメリカを含む「ロックを聴く国」のほぼ全部が、本作とヘンドリックスの音楽に強い衝撃を受けた。彼の自由な精神は、プリンスそのほか、その後の無数の才人ギタリストのロール・モデルともなった。

 

次回は40位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を