このままじゃ終われねえよ、と彼らは通りを渡って録音した―ザ・ビートルズの1枚(前編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

10位
『アビー・ロード』ザ・ビートルズ(1969年/Apple/英)

 

Genre: Rock
Abbey Road – The Beatles (1969) Apple, UK
(RS 14 / NME 34) 487 + 467 = 954
※10位、9位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Come Together, M2: Something, M3: Maxwell’s Silver Hammer, M4: Oh! Darling, M5: Octopus’s Garden, M6: I Want You (She’s So Heavy), M7: Here Comes the Sun, M8: Because, M9: You Never Give Me Your Money, M10: Sun King, M11: Mean Mr. Mustard, M12: Polythene Pam, M13: She Came In Through the Bathroom Window, M14: Golden Slumbers, M15: Carry That Weight, M16: The End, M17: Her Majesty

※M17はオリジナル盤ではクレジットなしで、隠しトラック的なあつかいだった。M16が終了後20秒ほど経ってから、M17が鳴り出すように設定されていた。

 

 巷間よく言われる「ザ・ビートルズの実質的ラスト・アルバム」が本作だ。69年の7月1日からレコーディングは本格スタートし、8月25日に終了した。バラバラになりかけていた4人が「いま一度、全員でアルバムに取り組もう」として、この録音はおこなわれた。結局それが、最後の試みとなった。11作目のイギリス盤オリジナル・アルバムである本作は、この点においてまず、永遠に滅しない価値を得た。

 

 ビートルズ存在時のイギリス盤オリジナル・アルバムは、このあとにもう1枚ある。『レット・イット・ビー』(70年)がそれだ。しかしそこに収録されたトラックは、69年1月におこなわれた「ゲット・バック・セッション」にて収録された音源がもとになっている。つまり、本作が制作されるよりも「前」に録音された素材を、本作のリリース後に「まとめ直した」ものが『レット・イット・ビー』だ。近年の研究により、収録曲の一部はジョン・レノン不在のまま70年に追加録音されたことが明らかとなっているものの、それは大きな問題ではない。すでにそのとき彼ら4人はバンドとしての体を成していなかったし、完成に至るまでの最後の道筋は、プロデューサーのフィル・スペクターに丸投げされることになったからだ。

 

 というか、「ゲット・バック・セッション」の出来の悪さ、後味の悪さこそが、逆に彼ら4人を奮起させた。「このままじゃ終われねえよ」とだれかが言った。そして「いま一度『まともに』」アルバムを作ってみようじゃないか、との合意が、4人のあいだに成立する。同セッションにて制作されたマテリアルを「まとめていく」作業よりも、もっと重要なことを彼らは思い出す。そして「合意」は、実行された。

 

 こうした「合意と実行」によって生み出されたビートルズ最後のアルバムが、本作だということだ。「バンドとしての」ビートルズの最後の姿は、このアルバムのなかにある。だから有終の美、というやつも、否応なくここにある。

 

(後編に続く)

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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