“自虐ネタ本に見せかけた、同志たちへの共闘宣言”『オタクだけど、オトナなので』

内田るん 詩人・イベントオーガナイザー

『オタクだけど、オトナなので』光文社
推しやし委員会 著/つぼゆり イラスト

 

最初、担当のMさんからこれが送られてきた時にはショックを受けた。

 

「なぜ、このような、オタ女を面白おかしくイジったような、誰も幸せになれなそうな本を私に送ってきたのだ…!そもそも、誰に向けて出された本なんだコレは!?オタクたちが『オタクってこうだよね~』って自虐してる座談本なんか、誰が読むんだ、誰が!!…また、この表紙のイラストの、オタク女子のアクの強さや自意識の強さ、そしてオタクであることをどこか恥じているような卑屈さを表現しきっているのも、生々しいし辛辣過ぎる!」

 

と、ショックのあまり一日寝込んでしまった(わりと本当)。

 

しかし、一日経って、この本の処遇を考えねば…こっそり捨てるにしても中身をまったく見ないで捨てるわけにもいかないかと、中を開いてみる…身もふたもないイラストとオタクあるあるのネタが山盛り、ああ、笑わないでくれ、オタクの生き方を、ようやく市民権を得たと思って安心した頃に冷や水をかける気なのか……、と目を細めてパラ読みすると、思ったより悪意はない。というより、美容やファッションの現実的な攻略法が多くて実用的だ…?

 

そう、オタクやってると同世代の女子からそういう情報を得られないから、どうしても周りから浮いちゃって恥ずかしいし、でも適当な女性ファッション誌を買って鵜呑みにすると高い服や化粧品を買わされるばっかりで、まず「私はどの雑誌買えばいいの?」てところから知りてぇんだよコッチは!…てゆーね。

 

そういう人が求めてる情報が色々書いてあって親切だ。それに優しい。「ブスだと思ってるのは自分だけなんだよね~」、そうそう、大人になるとわざわざ「美女ではない」人をつかまえて「ブス」なんて思う暇はない。女性がみんなモデルみたいな美女じゃなくても、社会はちゃんと回るのだ…。

 

この本は「呪われた」女子のための優しい指南書なのかも? よく考えたら、私も10代のオタク&ブス&デブの呪い真っ只中のときは、書店で女性誌を手に取ることもできなかった。

「こいつ、オシャレしようとか考えてんのかよ」と、レジで店員さんに思われたら…と思うと、売り場の近くにも寄れなかった。

 

「この世に自分ほど見苦しい女はいないだろう」と思いこみ、背中を丸め、人目が気になりすぎてコンビニに行くにも一苦労な苦しみの真っ只中、可愛いポップなイラストが表紙で「オタクでもそれなりに身綺麗にする方法 ☆卑屈にならないで!」なんて書かれた本を、手に取れるだろうか?否!そうだ、これは、「こんな私でも買ってもギリギリ許されそう…」と思わせるためのタイトルと装丁なのだ!!

 

そう思ってよく見ると、「つぼゆり」さんのイラストもあらゆるオタク女子のファッション、性格や生き様、哀愁、そしてチャーミングさや気高い美しさまでよく捉えてあって、良い絵だ…(ていうか凄い上手い。天才)

 

これは、本当に本当に苦しんだ覚えがあり、のたうち回った末、なんとか抜けられたけれど、同じ「呪い」に未だ苦しめられている同志たちに向けた、まさに「尊い」志の本なのだ…!!良い本!これは良い本だ!

 

読み進めていくと、今さらながらオタクの我が身をよく振り返れる。「オタクのファッションは一点手抜き主義」(わかる!わかりすぎる!)「オタクであることは基礎代謝」(ああ…言えてる!) などなどの名言も色々飛び出す。それでいてオタク用語や固有名詞の略語もいちいち注釈で説明してあり、「浅いオタク」や「一昔前のオタク」にも配慮。「私なんかオタクとも言えない半端者だ」と思うあなたにも、この本は扉を開いている。

 

「心を昂らせるものを持っているという点では、みな同胞だということだ」…なんという力強い共闘宣言!

 

ていうか「推し」(自分が愛好し、応援している存在のこと)がなくて生きてる人って、どうやって人生を乗り切っているんでしょうね? 推しと出会ってしまったがゆえに「普通」の女ではなく、オタクになってしまったのかもしれないけど、この厳しい社会を生きていく上で、「推しを養う」という悦びがなく、「普通」に生きるなんてできるのだろうか…?

 

(ちなみに、著者名の「推しやし委員会」とは、「推しを養う:ファンとして好きな対象にお金をつぎ込んで応援する」の略だと思ってます。違ったりして…)

 

『オタクだけど、オトナなので』光文社
推しやし委員会 著/つぼゆり イラスト

この記事を書いた人

内田るん

-uchida-run-

詩人・イベントオーガナイザー

1982年 東京生まれ神戸育ち。イベントオーガナイザー、詩人、フェミニスト、ミュージシャンなどいろんな肩書きのある無職。20代を無力無善寺、素人の乱、など高円寺の磁場の強い店での修行(バイト)に費やし、今は草取り・断捨離・遺品整理業を個人で請け負っている。文筆の仕事も。


・Twitter:@lovelove_kikaku

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