魂のサヴァイヴァーが、王となって「シェルター」に帰還する―ザ・ローリング・ストーンズの1枚(前編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

7位
『エグザイル・オン・メイン・ストリート』ザ・ローリング・ストーンズ(1972年/Rolling Stones/英)

 

Genre: Rock, Blues, Country Rock
Exile on Main St. – The Rolling Stones (1972) Rolling Stones, UK
(RS 7 / NME 24) 494 + 477 = 971
※7位、6位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Rocks Off, M2: Rip This Joint, M3: Shake Your Hips, M4: Casino Boogie, M5: Tumbling Dice, M6: Sweet Virginia, M7: Torn and Frayed, M8: Sweet Black Angel, M9: Loving Cup, M10: Happy, M11: Turd on the Run, M12: Ventilator Blues, M13: I Just Want to See His Face, M14: Let It Loose, M15: All Down the Line, M16: Stop Breaking Down, M17: Shine a Light, M18: Soul Survivor。

 

 ザ・ローリング・ストーンズのアルバムで、当ランキング最高位となったものがこれだ。イギリスで10枚目のスタジオ盤となる本作は、彼らにとって初の、LP2枚組のダブル・アルバムとなった。「黄金時代」の終焉を告げるに相応しい、大ヴォリュームかつヴァラエティにも富んだ、モニュメンタルな一作だ。

 

 本作の最大特徴は「明るい」ということだ。ライト感覚で「血の匂いのしない」70年代以降のストーンズが出現したのはここだ。憑きものが落ちたのか、喪が明けたのか。『ベガーズ・バンケット』(68年、37位)以降の、凄惨なる混沌のただなかから発信されていた彼らの音楽と、本作のそれは、本質的にまったく違うものへと変化を遂げている(表面的には「そっくり」なのだが)。生の歓びに満ちているのだ。自信満々で、輝ける明日に投げキッスをしているみたい、なのだ。

 

 そんな感覚が最大限に反映されたのが、シングル・ヒットともなった「ダイスをころがせ」との邦題で知られるM5だ。いみじくも「ハッピー」と題された、キース・リチャーズが歌うナンバー(M10)もある。どちらも彼らのライヴ・ショウで演奏されることの多い、人気曲だ。M1、M2も同系統のロックンロールだ。

 

 ブルースも多い。スリム・ハーポのカヴァーであるM3、ロバート・ジョンソンのM16を始め、M4、M12、カントリー・ブルースのM8、そしてデモ・テープ調(?)のM13がこれにあたる。カントリー・ロックもある(M6、M7)。そしてゴスペル調のコーラスをフィーチャーしたロック、つまり「ギミー・シェルター」(69年、21位の『レット・イット・ブリード』に収録)の再現を目指したようなM9、M14、M17、M18――と、本作は「黄金時代の総決算」と呼ぶべき構成となっている。総花的である一方、悪く言うと「散漫」でもある。

 

 そうなった理由は「ストーンズは勝ち残った」からだ。ビートルズの解散後、ロック界の「王座」に就いたのはストーンズだった、からだ。たとえば米〈ニューズウィーク〉誌71年1月4日号の表紙には、ステージ上のミック・ジャガーの写真がフィーチャーされていた。そこには「ロックの未来」と大きくコピーが打たれていた。前作『スティッキー・フィンガーズ』(71年、30位)が69年から70年にかけて録音されたものだったから、つまり本作は、「王」としての自覚を持ったあとのストーンズが初めて制作に取り組んだアルバムだった、と見るのが正しい。

 

(後編に続く)

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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