2018/12/07
でんすけのかいぬし イラストレーター
『くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女』光文社古典新訳文庫
ホフマン/著 大島かおり/訳
くるみ割り人形といえば、“パッ パパパ パッパ パッパッパー♪”というチャイコフスキーのバレエ音楽が思い浮かぶ人も多いでしょう。
原作はどうかというと、バレエのあらすじとはだいぶ違うらしい。
クリスマス・イヴ。
主人公マリーはたくさんのプレゼントと一緒に置いてあったくるみ割り人形が気になりとても大事にしていたが、兄フリッツが大きな固い胡桃を押し込んで割ったせいで壊れてしまう。
マリーは怪我をしたくるみ割り人形の世話をする。
ある夜、家族が寝たあとにマリーがくるみ割り人形の様子を見に行き語りかけていると、戸棚や暖炉の奥からひそひそ、がさがさと音がした。
そこではくるみ割り人形率いるおもちゃ軍と7つの頭をもったねずみの王さまの軍勢の戦いが繰り広げられていた!
くるみ割り人形と一緒にいるときに経験したマリーの真剣な話を、パパもママもフリッツも信じようとしないのが切ない。
今回、なんでティム・バートン風な絵でお届けしているかというと、『くるみ割り人形』って主人公マリーの名付け親でもある黒い眼帯をしたドロセルマイアーおじさんの不気味さや、おじさんが話してくれるメールヘンがちょっとホラーっぽくて怖いのだ。
ねずみがうじゃうじゃ出てくるシーンは、実際に猫を5匹も飼っているくせに屋根裏でドブネズミがバタバタ走り回っている音がする古い家に住んでいる私にとっては随分リアルに想像できてしまい、気持ち悪いどころか臭いまで再現されそうでムズムズする。
ねずみの王さまが夜な夜なベッドに来て話しかけてきたらおかしくなってしまいそうだ。
ねずみの王さまの母でマウゼリンクス夫人が肉親を殺された復讐をするため、おもちゃの王国のかわいいピルリパット姫に呪いをかけて醜い容姿にしてしまう事件『固いくるみのメールヘン』は、王さまも王妃さまもピルリパット姫ももちろんかわいそうなのだけど、呪いが解けなかったら処刑と王さまに命じられた秘術師たちも気の毒で、これはハッピーエンドになるのかしら?とハラハラしてしまう。
飴と鞭というけれど、この『くるみ割り人形』に関しては鞭と飴、かもしれない。
ちょっぴり怖いシーンの間にフフッと笑ってしまうようなコミカルなシーンも挟まれる。
ちょこまかとおもちゃ軍とねずみ軍が戦ってるシーンはまさにチャイコフスキーの音楽が流れそうなコミカルさで、ネズミ軍団と戦うシーンでは何を詰めて撃っているんだ?という大砲のチープなプムプムという音が飛び交い面白い。
(砂糖豆や胡椒入りクッキーを撃っているらしい)
マリー話を聞いて夢と現実の区別がついてないんじゃないかしら?と不安になった家族と同じように、私も読んでいる途中で、『いま私は現実世界とメールヘンの世界のどっちの話を読んでいるの?』という不安な感覚になってくる。
この話の語り手は誰なのか?
ドロセルマイアーおじさんは何者だったのか?
この話はハッピーエンドなのか?
いろいろと深読みしようと思えばいくらでもできそうで混乱してしまう。
もしかしたらこの物語を読みはじめた時点ですでに読者もメールヘンの世界に片足をツッ込んでいるのかも……。
『くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女』光文社古典新訳文庫
ホフマン/著 大島かおり/訳