akane
2019/05/10
akane
2019/05/10
Genre: Alternative Rock
Nevermind – Nirvana (1991) DGC, US
(RS 17 / NME 11) 484 + 490 = 974
※5位、4位の2枚が同スコア
Tracks:
M1: Smells Like Teen Spirit, M2: In Bloom, M3: Come as You Are, M4: Breed, M5: Lithium, M6: Polly, M7: Territorial Pissings, M8: Drain You, M9: Lounge Act, M10: Stay Away, M11: On a Plain, M12: Something in the Way
※M12のあとに「Endless, Nameless」という隠しトラックが収録されていた。
(前編はこちら)
いわゆる「うなり節」であるグロウルにかけて、コベインは傑出していた。歌詞は(意図的に)支離滅裂なことも多かったのだが、なによりも彼の「声」そのもののシリアスさが、聴く者の耳をとらえて離さなかった。強烈な存在感を、絶望の渦の底みたいな磁場から発し続けていた。そこにはまぎれもない、ブルースがあった。20世紀前半に伝説を残したフォーク/ブルース・アーティスト、レッドベリーをコベインは愛好していたのだが、声色と節回しの点でたしかに共通項がある。彼のこの深々とした奈落の色彩は、同時代のいかなる歌手とも、似ても似つかないものだった。
と、こんな特質をそなえた彼らの音楽に、巧妙な「お化粧」を施したのが本作だ。プロデューサーのブッチ・ヴィグによって、アンダーグラウンド臭は適度に消毒され、新時代のハード・ロックとして整備された。M3、M6、M12、(隠しトラックの)M13といった曲の暗さと混沌には「消毒前」の菌の残存率が高い。対して、M2、M4、M5、M7、M8あたりは、そのあまりのパワー感から体育会系の学生「ジョックス(Jocks)」までもが誤解して好んだ。こうした「成功の代償」がコベインの精神状態を悪化させ、より一層ヘロインに耽溺させた、との説は根強い。
本作の発表からわずか2年半後の94年4月、コベインは散弾銃を使って自殺する。27歳だった。ここから「ブーム」は徐々に鎮火していく。あらゆる街の「インディー」ロック・バンドが、「メジャー」レーベルに青田刈りされた季節は終焉を迎え、そしてその後、二度とこのような「事件」は起きてはいない。
パンク・ロックの原型すべてを生んだ国であるアメリカでは、しかし「パンク精神ゆたかなロックは売れない」というテーゼがかつてあった。先鋭的なバンドの居場所はアンダーグラウンドで、それらがメインストリームに浮上してくることは、原則なかった。が、ときにその「原則」にひずみが生じ、地殻変動が起きることがある。マイケル・ジャクソンが「キング・オブ・ポップ」になったこと、ヒップホップが大流行したことなどと同等の、ある種の下克上的な事態が「ロック」の領域で起きた、いまのところ歴史上「最後」の事件こそが、ニルヴァーナのブレイクだった。
打ち上げ花火のように「最後のロックスター」は炸裂して消えた。だが満天下に彼らが示した「ロックに固有の」破壊力の残照は、いまもなお、本作のなかで熱を発し続けている。
次回は4位。乞うご期待!
※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。
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